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頑張れ!石岡君
石岡くん披露宴騒動記 1 「石岡君、ラジオで相談にのる」3 優木麥 石岡くん披露宴騒動記 1

     
…

「実は…非常に困った事態になっておりまして…」
 ディレクターは青い顔をして私とマイケルを交互に見つめる。
「さっきの相談の中で、石岡先生が百科事典のセールスマンに対して、商品を買うとおっしゃったでしょう?」
「え、ええ…」
「それを聴いていたスポンサーたちが『当社の提供する番組で、関係ない会社の商品を結果的に宣伝されたのと同じ行為だ』とクレームをつけてきたんです」
 私はうつむいた。あのときは、自分と同年代のセールスマンが頑張っている姿に心を打たれてしまって、つい百科事典を買うなどと口走ってしまった。しかし、考えてみれば公共の電波を使ってそんなことをしては、宣伝したのと同じ効果を生むだろう。
「すみませんでした。ボクが軽率なことをしてしまって…」
 私は深く頭を下げる。
「CM明けまーす」
「しょっぱなから曲でつないどけ」
 指示を出したディレクターは私の肩に手をかける。
「いいえ先生、頭を上げてください。もう済んでしまったことですから…ただ」
 彼は意味ありげに言葉を切った。
「何ですか」
「もし、石岡先生にご協力いただければ我々としては助かるのですが、お願いしてもよろしいでしょうか」
「それはもう、ボクに出来ることでしたらなんでもお手伝いします」
 私の配慮が足りないためにこの人たちに迷惑をかけたのだから、責任を取る意味でも協力する義務がある。
「そうおっしゃっていただけると嬉しいです。実は、スポンサーたちが、この番組の間に自分たちの商品も同じように宣伝してほしいと要求してきまして…」
「宣伝って…オレが宣伝するコーナーはいつも通りやってるじゃないですか」
 マイケルが口を挟んだ。ディレクターは首を横に振る。
「違う。君のやっているコーナーはいつものことだから、宣伝効果もいつも通りだろ? それとは別に石岡先生に番組内で宣伝して欲しいというのです」
「えっ、私が…ですか」
 私は驚いた。いつもTVで見ているコマーシャルを自分がやるなんて考えたこともない。
「さきほどの百科事典と同じように、相談者の質問に答える形で、各商品をさりげなく宣伝していただくという形で、お願いします」
「ちょっと待ってください。それはどういう意味ですか」
 私は何をすればいいのか頭がこんがらがってきた。ディレクターが外に合図をするとADが商品をいくつか抱えて入ってくる。
「ウチの番組のスポンサーはこの三つです。『マッスル納豆』『シャッキーンシェイバー』、それからこれは商品ではないんですが、『パチンコパーラーDON』。次の相談では、この三つの単語をさりげなく回答に挟み込んでいただけますか」
「いやあ、その…」
 さすがにディレクターの要求には無理があると感じた。スポンサーの商品名を次から次へ出すなんて、いくら何でも不自然すぎるのではないか。そんなわざとらしいことをしたら、かえって宣伝効果は下がる気がする。
「心配ありません」
 私の懸念を聞いたディレクターは胸を叩いて請け負った。
「すでに相談者の選別を行なってありまして、自然な流れで石岡先生が商品名を出せるように調整済みです」
「そうですか、でも…」
 正直いって私はあまり気が進まない。それでは、まるで商品の宣伝が主で、相談者への回答がないがしろになる気がしたのだ。
「あの…僭越ですが誠意ある回答をする方が…いいのではないでしょうか。私もモノをつくって世の中に提供する立場の人間として、スポンサーよりも、お客のためにあるべきではないかと思うのですが…」
 私は一応提案してみた。それを聞いたディレクターの表情が曇った。
「そうですよね。先生のおっしゃる通りです。どうも私は初心を忘れていたのかもしれませんね」
「いえいえ、そんなことは…」
「わかりました。先生はご自身の信じられる通りに回答してください。たとえ今回の放送が最後になっても、私は立派な仕事が出来たと入院中の娘に伝えてやれますから」
 私は仰天した。
「ちょっとお待ちください」
 ブースを出ようとしていたディレクターが「何ですか」と振り返る。
「いえ、その…スポンサーの意向に沿わないと、放送は打ち切りですか?」
「当然そうなりますよ。番組の中で別の商品を宣伝した挙句に、自社の商品の紹介を断るわけですから」
「娘さんが入院されているんですか?」
「ええ、まあそれはプライベートなことですし。スポンサーに逆らうディレクターなんかどこも使いたがらないでしょうから、転職も考えないと…」
「わかりました! ボクはやりますから」
 私はほとんど反射的に叫んでいた。
「そうですか。やっていただけますか」
 ディレクターが私の手を握らんばかりの勢いでブースに戻ってくる。
「では、早速段取りをご説明します。質問コーナーが再開されたら、3人の相談者までこちらで決めてありますから、先生は覚えた内容をベースに回答してください」
「はい」
 ディレクターの豹変振りが少し気に入らなかったが、引き受けてしまった以上やるしかない。
「最初の相談者は20代の女性です。彼女はダイエットしたいのだが、どうすればいいのかという相談ですので、この『マッスル納豆』がいいと勧めてください」
 私は力コブが描かれた納豆を手渡される。
「もしおイヤでなければ、先生ご自身も毎朝食べているとおっしゃっていただければ完璧です。その後、この効能を読んでください」
「あの、なんか不自然じゃないですかね」
「大丈夫ですって。その次の相談者は、何回面接しても就職先が決まらない20代後半の若者。彼にはこの『パチンコパーラーDON』です」
 ド派手なパチンコ店のチラシが私に渡される。
「そんな彼に、パチンコを勧めるんですか?」
「気分転換しなさいとか何とかいえば、それらしく聞こえますよ」
「強引ですね」
「それぐらいがいいんですよ。そして3番目の相談者には『シャッキーンシェイバー』。彼は40代のオジサンで、ギャンブルにハマッた生活から抜け出したいそうです」
「なぜギャンブルをやめるのに、電気カミソリなんですか?」
「つまり、こういうんです。まず今のあなたの顔を鏡に映してごらんなさい。ひどい顔をしてませんか? 博打に憑かれた顔を普通に戻すことから始めてください。この『シャッキーンシェイバー』でね、というんです」
「いや、それにしても…」
「あ、曲終わりまーす」
 ADの声が聞こえた。
「それでは、石岡先生万事よろしくお願いしますよ」
 ディレクターはブースの外に出て行った。猛烈に嫌な予感が私を襲う。まだ自分のやるべきことを認識していないのだ。
「オッケー、素敵なナンバーを聴いてもらった後は、相談コーナーをアゲインするぜ。パワフルで、エネルギッシュな質問をバンバン送ってくれ、イェーッ!」
 マイケルの脳天気な挨拶と共に、再びブースからの放送に戻った。私は先ほどの商品と質問者の組み合わせを書いたメモを探す。あんな駆け足の説明ではとても頭の中に内容が入っていない。
「では、最初の質問者カモン」
 マイクから聞こえてきたのは女性の声だった。
「ちなみ27歳です。夏に向けてダイエットしたいんだけど、いろいろ試しても長続きしなくて…。もし石岡先生にいいダイエットの仕方を教えてもらえたら嬉しいな」
 本来、この手の質問は私には不得手である。おまけにさっきのメモが見つからない。
「さあ石岡先生、ちなみにグッドアドバイスをよろしく」
 マイケルが私に話を振るが、用意されていた答えは何だったか不明だ。しかし、スポンサーやディレクターに迷惑をかけた以上、自分の役割をキッチリとこなさなければならない。おぼろげな記憶だが、私は机の上にあった商品で答えることにした。
「あなたには『シャッキーンシェイバー』をお勧めします」
 私の目前のマイケルの顔色がみるみる変わっていった。

つづく つづく
…
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