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頑張れ!石岡君
石岡くん披露宴騒動記 1 「石岡君、ラジオで相談にのる」2 優木麥 石岡くん披露宴騒動記 1

     
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「なぜ、カゼの又三郎…なんですか?」
「風邪でよく学校を休んで、ウチの番組を聴いてるリスナーなんですよ。それで質問コーナーになると、理屈をこねたような、ヒネた質問をしてくる。専門家が答えられなくてオロオロするのを楽しんでいるんですね。タチが悪いでしょう」
「じゃあ、さっきの外貨預金の質問も…」
「当然ですよ。そんなこと本気で考える小学生なんかいるわけないですから。風邪で電話をまた掛けてくるからカゼの又三郎と呼んでます」
 私としては最初の質問から肩透かしを食らった気分だ。
「いつもは彼からの電話はシャットアウトする手はずになっているんですが、きっと最初は友達か大人に掛けてもらってスタッフを騙したんでしょう。まったく…」
「ハイ、CM明けるよ。気を取り直して質問スタンバイ」
 ディレクターの声がした。
「そういうことなのですみませんでした石岡先生。次からよろしくシルブプレ」
 いつのまにか気が緩みかけていたが、今度からはまた胃が痛い思いをして、質問に答えなければならないのだ。次の質問者は45歳の営業マンだった。
「百科事典を扱っているんですが、みんなインターネットで調べ物しますから今のご時世では全然売れません。私は元々、経理畑で20年やってきたものですから、セールスなんてようできませんわ。毎日ピンポーンしては、門前払いを食らっていますよ。営業所に帰れば、息子みたいな年齢の社員と比べものにならない成績でたまらんです。おまけに以前の部下だった経理の女子社員には、請求した経費を付き返されて…。私は悔しいです。何のために…」
「オジサン、そんなネガティブなマインド持ってると、本当に負け犬に…」
「私が買います!」
 マイケルは私の叫びに驚いている。
「私がその百科事典を買いますから。だから、泣かないでください」
 たまらずに私は慰めていた。もし私が今から営業の仕事になって、一軒一軒を訪ねて歩かなければならないとしたら、どんな人生になるか想像もつかない。そんな予想外の人生の渦中にある彼に対して、私はかけるべき言葉はなかった。彼に必要なのは、お客なのだろう。それなら、その百科事典を買うお客になろう。職業柄、百科事典のお世話になることは少なくないので、別に損ではない。
「石岡先生、そんな…ありがとうございます」
 質問者の嗚咽が聞こえてきた。
「カラーブックスタンドと、検索用CD−ROMも格安で…」
「オイオイオイ、ここは商談コーナーじゃなくて、相談コーナーだっつうの。細かい話はまた後日。とにかく希望が持ててよかったね。回答終了。ハイ、次の質問者カモン」
 三番目の質問者は、若い女性だった。
「マリコ17歳」
「オーケー、マリコの相談は何なの?」
「ウーン、なんかー生きてても、毎日面白いことないなあって」
 私はこの手の質問に過剰に反応してしまう。ティーンエイジャーの抱えている悩みは、決して大人から見て簡単に片付けてはいけない。
「そうですか。以前は面白いことがありましたか?」
 面白いという定義は、人によってさまざまだ。まずはそこから同じ土俵に載ることが大事だと思う。何よりも、こちらが真剣にならなければ、相手からその不真面目さをすぐに見抜かれてしまう。
「ウンあったよ」
「どんなことですか?」
「クラブとか楽しかった」
「クラブ? 運動やってたの。それとも文化的な活動ですか?」
「アッハハハ。違うよ。クラブって学校のダサいクラブじゃなくて、踊ったり、みんなと会えるクラブ」
 そんな場所があるとは知らなかった。ディスコのようなお店なのだろうか。
「いや、実を言うと、ボクもいま面白いことがないんです」
「へー、そうなの」
 マリコは素直に反応してきた。私は慎重に言葉を選ぶ。気持ちが同調してくれば、相手も心を開いてくれるはずだ。
「でも、面白いことがない毎日が別に悪いことだとは…」
「あ、ゴメン石岡さん。アキたち来たから、カラオケ行くね。バイビー」
 通話は切られた。相談は解決したのかどうか判別不能だ。
「さあ、みんなジャストモーメントしてもらってる相談者は多いから、ドンドンいくぜ。ただし、勝手に切るなよ。いいな、オッケー」
 次の質問者は、また幼い子供だった。
「カギが…カギが見つからないの」
 しかも最初から泣いていた。一生懸命、説明してもらおうとマイケルも質問をくり返すが、あまり要領を得ない。
「泣かなくても大丈夫だよ。なくしたのは家のカギなの?」
「違う」
「じゃあ、自転車や、ロッカーのカギかな?」
「違う」
「何のカギをなくしたのかいってくれないと、先生も答えられないぞ」
「なくしたわけじゃないの」
「えっ、持っていたカギをなくしたわけじゃないのかい」 「見つからないの」
「それは、その…よく探したかい」
「うん、世界中の国に探しに行ったよ」
 私はわけがわからなくなってきた。
「君が探しているのは、もしかして…」
「あのね、ドラゴンの城の扉を開ける伝説のカギっ!」
 私が返答する前にマイケルがマイクにがなる。
「そんな質問は、そのゲームをつくった会社の人に訊いてくれ。ハイ、回答終了。次の人、質問カモン」
 私も疲れてきた。だが、まともに質問に答えたのは何人だろうか。だんだん自信がなくなってきた。いや、元からそんなに持ち合わせてはいなかったが…。
「三郎9歳です」
 突然、マイクから響いた声に、私は飲んでいたアイスティーを噴出しそうになってしまった。例の"カゼの又三郎"が再登場だ。
「あれ、もう君は最初に質問したよね」
 マイケルが渋い表情になっている。
「でも、また訊きたいことがあるのでお願いします」
「まあ…では、どうぞ」
 生放送であることと、相手が小学生ということで、さすがにマイケルは大人の態度を取らざるを得ない。
「日本は大統領制に移行した方がいいと思うんです。やはり国家元首は国民の民意によって選ばれるべきで、現行の制度では内閣総理大臣を選定する過程に不明瞭な部分が多すぎますよね。その前段階として、ボクは首相公選制を…」
「えっ、コマーシャルですか。すみません。ここでコマーシャルいきまーす」
 ディレクターの意を受けたマイケルは強引に進行してしまう。同時に三郎の声も途切れてしまった。
「まったく、しつこいガキですね。ネタ本からそれらしい部分を引っ張り出して読んでるだけなんですよ。質問でも、相談でもない」
 マイケルは苦虫を噛み潰した顔でコーヒーを啜る。
「でも、いいんですか。もしかしたら彼は真剣に質問したくて、電話をかけてきているのかもしれないですよ」
 私は気になっていたことをいった。なぜなら、さっきも、その前も質問を真面目に受け取らず、回答しないまま打ち切ってしまっているからだ。三郎が何度もアプローチしてくるのは、きちんと相手にして欲しいからではないのか。
「石岡先生はお優しいですねえ。そんな風に好意的に考えてたらきりがないですよ。アイツら、大人をからかって楽しんでるだけですから。番組の進行の方を考えてください」
「え、ええ。まあ…」
 私はまだ釈然としないものを感じていた。
「マイケル、ちょっと入るよ」
 ディレクターが私たちのブースに入ってくる。なにやら切羽詰った様子だった。

つづく つづく
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