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頑張れ!石岡君
石岡君、バーベキューに行く 3 「石岡君、バーベキューに行く」5 優木麥 石岡君、バーベキューに行く 3

   
…
 雨男の容疑者は、高橋だった。その彼を外したバーベキュー侍のメンバー6人プラス私の7人が翌週の日曜日に再び集まる。しかし……。
「なぜ雨になるのか」
 向坂は窓を開けて、激しく降り注ぐ雨の粒を忌々しそうに睨んでいる。
「高橋さんではなかったようですね」
 私は言いたかったことをようやく口にする。大体、最初から私は雨男の存在を信じていない。科学的にも、人生観としてもだ。たった一人の人間の行動によって天候が左右されるなどありえない。だから、先週の“守り火の神託”で唯一、火が消えてしまった高橋を雨男扱いすることに内心では強く反対していた。しかし、いわば私はバーベキュー侍の正式なメンバーではない。内部の問題にあまり干渉すべきでないと口をつぐんでいたのだ。
「高橋君ではないとすると、誰なんだろう」
「おいおい、また守り火の神託をやるのか?」
「いやよ、こんな雨の中で」
「だから、僕が雨男でいいですよ」
 代田がふてくされたように言う。リーダーの向坂は処置なしといった顔で黙りこくっている。このままではバーベキュー侍が空中分解してしまう。
「石岡先生……」
 苦渋に満ちた表情で向坂が私に話しかけてきた。
「何か妙案はありませんか?」
「そう言われましても……」
「やはり、先生のお知恵をお借りするしかありますまい」
 私は困るしかない。雨男なんて存在を見つけることは不可能なのだ。
「バーベキュー侍は解散しかないわね、じゃあ」
「そうだな」
 雰囲気が最悪の方向に向かっていた。だが、冷静に考えればこんなバカな話はない。メンバーに雨男がいるから解散すると言うのだ。
「バーベキューは野外でやらないとな」
 それはみんなの総意である。雨は天敵なのだ。
「潮時なんじゃねーの」
 他のメンバーに異論はないようだった。彼らが荷物をまとめ始める姿にたまらなく切ない気がした私は、思わず声を出していた。
「待ってください」
 勝算があったわけではない。とにかく止めなくてはと思っていた。
「どうしたんです石岡先生」
「私は雨男の正体を知っています」
 全員の目の色が驚愕に染まる。


「それで正体を説明するなんて大見得を切ったの?」
 里美は私の話を聞いてあきれている。
「そう言わなければ収拾がつかなかったし……」
「アテはないんでしょ?」
「ない……」
 雨男の見当などつくはずもない。
「どうするのよ。とりあえず解散を先延ばしにしただけじゃないの」
 里美の非難はもっともだ。
「でも彼らのような存在をなくしてしまうのは忍びなくて……」
「バーベキューか。なんか笑えるわよね。バーベキューをやるために集まったのに、雨に祟られてろくにできないなんて」
「まあ、無理やり決行してたみたいだけど……」
 私は紅茶を啜る。
「雨男なんていないのにね」
「いないものをいないと証明するのは難しいんだよ」
「なるほどね。いるものをいますと証明するほうが手がありそうだもんね」
「結局、解散は免れないのかなあ」
「ねえ、いつも全然晴れないの? 一回も晴れたことないの?」
「そうらしいよ。結成以来」
「ひどい話よね」
「雨男の存在を疑りたくもなるんだろう」
「でもさ、じゃあ毎日会ったら、毎日雨が降るのかなあ」
 里美の疑問は単純だったが、それだけに真実をついていた。雨男というものが本当に雨を降らせる能力があるのなら、理論上はそうなる。
「いない、と証明することは難しいけど、やるしかないか」
 私の頭には、あるひとつの方法が閃いていた。


「石岡先生がたっての願いとおっしゃるから……」
 向坂の声には多少の怒りがこもっていた。それは、バーベキュー侍全員の声の代表でもある。
「すみません。平日にお呼び立てして…」
 私は殊勝に頭を下げる。発表したいことがあるので、平日に集まって欲しいと緊急にバーベキュー侍を招集したのだ。
「仕事の休みを取るのは難しい時期だったんですよ。さすがにバーベキューに行くからとはいえなかったけど……」
 奈美がボヤいていた。
「でも、見事に晴れましたね」
 私は一番言いたかったことを口にした。ついにバーベキュー侍がバーベキューを開催するために集まって、雨が降らなかった。
「やっぱり高橋君が元凶だったんだ」
 その声に誰もがうなずく。その場には雨男の疑いをかけられた高橋の姿だけが見えない。誰もが彼が雨男だと感じていた。
「そうでしょうか」
 私が疑問を提示する。
「何を言い出すんです。現に……」
 向阪の言葉は最後まで言われなかった。奥の部屋から高橋が出てきたからだ。 「石岡先生、なぜ高橋君が……」
「もちろんぼくが呼んだからです。バーベキュー侍は7人全員揃って欲しかったからですね」
「しかし……」
「実は、今日のこの日に皆さんを集めたのは他でもありません。この日は、この20年間9割以上の確率で雨が降っている日なんです」
「えっ……」
「でも、ご覧のように見事に晴れました。つまり、雨男はこのメンバーの中にはいないんです。偶然だったんですよ。今までの雨は」
「うーん……」
 向坂は腕組みをしていたが、やがて納得したようにうなずいた。
「高橋君、つまらん言いがかりをつけてすまなかった」
「いえ、もう済んだことです」
 7人のバーベキュー侍に笑顔が戻った。私はこの風景が見たかったのだ。なぜ9割以上の確率で雨が降るはずのこの日が晴れたのか。もちろんカラクリがある。私の口上はデタラメなのだ。20年間の降水確率など調べていない。雨が降るのか、晴れるのかはわからなかった。しかし、私は、もし雨が降ってしまったら、その翌日、また雨が降ったらさらにその翌日と晴れるまでバーベキュー侍を招集するつもりだった。いくら何でも、いつかは晴れるはずである。そのときに、高橋をメンバーの前に姿を現させれば、雨男の疑いは晴れる。ピンポイントで週末に予定を入れているから、雨が降る可能性も高まってしまう。連続して会っていれば、さすがに全て雨に祟られることはありえない。もちろん、本当に雨男がいるのなら話は別だが。
「石岡先生、最高のチキンを焼いてあげますからね」
 バーベキュー侍のメンバーはバーベキューの準備に余念がない。私はようやく彼らのバーベキューパーティに参加できそうだ。

つづく おしまい
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