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頑張れ!石岡君
石岡君、バーベキューに行く 3 「石岡君、バーベキューに行く」4 優木麥 石岡君、バーベキューに行く 3

   
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  雨男の捜査をする。そんな酔狂なことを本気でやっているのは、世界広しといえども私だけだろう。いや、本気度に関しては異論がある。成り行き上、この山中のお堂に“守り火”を取りに来るバーベキュー侍相手に捜査の真似事はしているが、本心では冷めている。無理もない話だろう。いくら自分たちがバーベキューを企画すると雨天が多いからといっても、雨男のせいにするとは、非科学的も極まれり、だ。
「雨男なんて半信半疑でしょ?」
 5番目にお堂に来た高橋が私に笑いかける。ちなみに彼は着流し姿にギターを背負っている異形だ。
「正直、困っています」
 素直に本音を吐いた。高橋は半信半疑という言葉を使ったが、私からすれば半分も信じていない。バーベキューパーティに呼ばれたから、つきあっているだけといっても過言ではないのだ。
「僕もそうでした」
 高橋は私に火をつけてもらいながら話す。
「雨男うんぬんなんていつの時代の話だよ、て思ってました。だけど、少しだけ信じるようになったんです」
「なるほど……」
 話のわかる人物と出会えた気がしたのに私は意気消沈である。赤い炎とライターの青い炎が混ざり、紫の炎と変わった。
「というのは、他のバーベキューパーティに参加するようになりましたからね」 「ええ……」
「だから、僕は誰が雨男かはわからないけど、誰が雨男ではないかはわかります」  高橋は“シロ”の人間を知っているという。
「僕の前に桜井が来たでしょう」
 4番目に来た迷彩服の男のことである。
「彼と僕は、よく他のバーベキューパーティに顔を出すんです。そのときは、まだ一回も雨に祟られたことがありません」
「へー、そうなんですか」
「ピーカンばっかりですよ」
「ピーカン?」
「ああ、すみません。業界用語で晴れのことです。僕と桜井はCMの仕事をしているんです」
 お堂を出て行きながら、高橋はくり返した。
「僕と桜井は雨男じゃないですよ。石岡先生も、バーベキュー侍のイベント以外に参加したとき、雨が降るかどうかで判断したほうがいいんじゃないですか」
 説得力ある話だった。


 6番目の男は、代田という柔道着姿の人物だった。
「もう僕が雨男でいいですよ」
 お堂に入るなり、開口一番、彼はそう言った。
「落ち着いてください」
「たぶん、皆も僕が雨男だと言ってるでしょう」
「いいえ、あなたの名前は出ていません」
 私は真実を話した。しかし、代田は聞く耳を持たない。
「信じられない。かばってくれなくてもいいです。僕は皆から一段下に見られてること、わかってるし。いつもバーベキューに行くのに、車の運転をするのは僕ばっかりなんですよ」
「そうなんですか」
「だから、ハッキリ言って僕はメンバーを快く思ってませんしね。向こうだってそうだと思います。きっと雨男がどうのこうのの話も僕を陥れるためのネタだろうし……」
「そんなことはないですよ」
 私は興奮する代田を必死でなだめた。
「この後、7番目に向坂さんが来るでしょう。そのときに、誰が雨男か言う話なんですよね。だったら、もう僕でいいですよ」
 最後まで私の話を聞かずに、代田はそう言って去った。


「雨男の見当はつきましたか」
 最後にお堂に現れたのは、リーダー格の向坂だった。私には、まだ確信が持てていない。
「6人のメンバーの言動はチェックされたんですよね」
「ええ、一応……」
「絞り込めましたか?」
「結論から言えば、複数の人がこの人だと指した人物はいなかったんです」
「何ですって……」
 向坂には意外だったらしい。
「それぞれが一人ずつを指名していました」
 私も驚くほど、キレイに分かれた。それを一度、整理してみよう。
●奈美(弁財天)……向坂
●近藤(弁慶)………森島
●森島(忍者)………桜井
●桜井(迷彩服)……近藤
●高橋(着流し)……指名せず
●代田(柔道着)……代田
 こうして整理すると、高橋と奈美の二人は誰からも「雨を降らせる元凶」と思われていないことがわかる。
「当初、向坂さんがおっしゃっていた自分が雨男ではないかという疑念を抱いている人物という定義にあてはめるなら、代田さんがそうだということですが……」
「うーん……」
「どうしたんですか」
 私の報告を聞いた向坂は難しい顔をして黙り込んでいる。
「向坂さん…」
「いや、実はこの“守り火の神託”なんですが、火が消えてしまった人物がいるんですよ」
「え……」
 本来なら、このお堂から戻って火が消えてしまった人物こそが雨男であるという神託なのである。
「どなたですか?」
「高橋君です」
「え……」
 山の神様の審判は、彼に下されたことになる。しかし、高橋は、本人もこれ以外のバーベキューでは雨に降られたことがない、むしろ晴れ男だ。ましてや、メンバーの誰からも雨男疑惑をかけられなかった。
「そうしますと……どうなるんでしょう」
「守り火の神託の結果は無視するわけにはいきません。何のためにこれを行なったのか意味がないですからね。山の神様の意思を尊重しなくては」
「しかし、高橋さんは唯一、嫌疑を免れた人ですよ」
「うーん……」
 しばらく考えた後、向坂の目が輝いた。
「検証しましょう」
「何ですか」
「高橋君が本当に雨男かどうか検証すればいいんです」
 私にはそんなことが可能なのかどうか判別不能だ。
「つまり、来週のバーベキュー大会は、申し訳ないが高橋君抜きで決行するんですよ。それで、雨が降らなかったら、彼こそが雨男だと認定せざるを得ない」
「はあ、なるほど……」
「これなら、彼も納得するはずです」
 向坂は自分の解決策に満足げにうなずいている。
「もちろん、石岡先生も見届け人としてお付き合いいただきますぞ」
「えっ、あの……」
 一体、いつになったらバーベキューを食べられるのだろうか。

つづく つづく
…
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