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編集室の窓から
島田荘司のデジカメ日記
第99回
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12−1(土)、龍臥亭の夕べ。
さていよいよ「龍臥亭の夕べ」当夜。恵比寿までは電車で行った。主賓の大島美智子さんは、さすがに完璧な髪型、華やかないでたちで現れた。間もなく着飾ったSSKの女性たちが三々五々登場。借りきった「PICASSO」の店内は、一挙に華やいだ雰囲気となる。
井上夢人さんも現れるが、A井さんもぼくも、われわれはいつも通りの格好である。池波志乃さんが登場、ラフなジーンズにセーター姿で、さすがに決まっている。今宵は中尾さんも来られる予定になっていたのだが、なんでもタモリ氏がゴルフで怪我をして、そのしわ寄せで急遽本日、何日分かのヴィデオを撮り溜めしなくてはならなくなり、キャンセルとなった。実に残念なことである。
ビートニクス弁護士も登場。手前の主賓席にすわらされ、いやぼくはあっちの一般席の方が、と恐縮していたが、A井さんに強引にすわらされる。
編集者諸氏もどんどん来場、揃ったところでA井さんの名司会が始まった。「では、大島美智子さんのピアノ演奏でございます」とばかりに大島さんを前に呼んだら、これが手違いで、2人は舞台袖でやっさもっさの大渋滞、A井さんいわく、
「あ、いや、ま、間違いました。ちょ、ちょっとアガっておりまして……、まず最初は、た、竹内さんの花束贈呈でございました」と言った。それで大島さんはまた席に戻り、竹内さんが花束を持ってしずしず登場した。どうも打ち合わせがうまくいっていなかったらしい。
それでぼくは立ちあがり、舞台手前に出ると、吉敷竹史の母、竹内衣子女史が花束を差出してくれて、「作家生活20周年、おめでとうございます」と言われた。それでこの時はじめて、あそうか、今年の会はそういう趣旨であったのかと思い知った。20年か、いやぁ、長いことやっているものだなぁ、と思う。おかげで御手洗さん石岡くん(?)は今や50代、吉敷は定年退職間際となってしまった。書きはじめた頃はこんなに作家をやるとも思わず、というより何も考えていなかった。こんなことなら主人公の年齢は書かないでおくのだったと思ったが、時すでに遅い。吉敷は、十津川さんなどの諸先輩を追い抜いて、警視庁を去ることになってしまう。
まあ男の場合はなんでもいいが、女性の場合は、これはちょっとまずかったかなと思う。50歳になった里美ちゃんは、はたしてどんな喋り方をするのであろう。しかしこれもまた、女性世界の醍醐味というものであろうか。
続いて挨拶を乞われる。「友人の誰もまだロボットの妻は持たないし、われわれのどの車もまだ空は飛ばないが、われわれはみんな歩きながら、遠くの友人たちと会話し、家に帰ればPCのヴァーチャル空間に浸って過ごしている、それが旧世紀のSF作家の誰1人予想し得なかった、21世紀でした……」とこれはもう、何度も何度も書いたり話したりしていることなので、口が勝手にしゃべってしまう。たまたま「21世紀本格」のアンソロジーをやっていたものだから、今年の挨拶はまことに楽であった。
それから各編集者氏をぼくの口から紹介し、お世話になったお礼を少し述べて、ちょっと会話をする。この中で1番やりづらかったのが文春の芸能人、菊池夏樹氏で、これはもう1人で喋ってもらった方がずっとよかった。井上夢人氏の番になった時に、喉の調子はどうですかと訊いたら、「もうガラガラ」と言っていた。そうであろう、ぼくも同じだ。
さらにはビートニクス弁護士、またSSKの各管理人、主だったメンバーも、この時みんなに紹介した。桜子さんも来ていたので、名前を紹介した。志乃さんもむろんである。彼女は、中尾さんが来られなかった理由を、みなに説明してくれた。
そしてやっと大島さんのピアノ演奏、これは毎年のことながら、見事なできであった。アップライトのピアノなのだが、決して狭くないピカソの店内に、実によく響き渡った。大島さんは後で、「最初はアガってしまって、何弾いているのか全然解りませんでしたー」と言っていたが、全然そんな様子はなかった。もうかなり耳に馴染んだメロディ。龍臥亭の村の牧歌的な風景を、印象派ふうに描写した美しいメロディーが、つづら織りのように続く。近くA井さんと、「龍臥亭事件2」を作る計画がある。そうしたら、このピアノ組曲全曲を何千枚かCDに焼いておいて、この時読者プレゼントにしようとA井さんと相談している。
しかしまあこれは、ぼくが「龍臥亭2」を書かなくては始まらないことだ。まことに忙しいが、しかし頑張るほかはない。作品を要求されるのは、作家としては幸せなことだ。20年前デビューした頃は、来年あたり編集者たちが揃ってお尻に帆かけて逃げだし、作家生活は2、3年であえなく終るか、などと考えていた。もしもそうなっていたら、母親がいつか言っていたが、吉祥寺の道端でアクセサリーを売っていたであろう。いや、長距離トラックの運転手あたりか。
大拍手とともにピアノは終り、次はぼくと井上さんのコーラスとなる。しかしこれはやっぱり現場で練習をしておくべきで、狭い舞台に立ってみたらスピーカーがすぐ背後にあり、ハウりそうで大変であった。それを避けると今度は、ちいさなモニター画面の英文字が読めない。また、自分の声もなんだかよく聞こえなかった。しかしそこはもう何年もやっている曲で、なんとかこなした。
続いて、みんなが飛び入りでカラオケをやることになる。SSKきっての本格派クラシック歌手、村ドンさんも自慢の喉を披露した。SSKきってのロッカーしゃくてぃさんも、激しいシャウトを聴かせた。しかし今夜は、彼を上廻る破壊的ロックンローラーが来場していたのだった。Matthewさんである。この会場では彼はおとなしくしていたが、あとで彼は、みなの度肝を抜くことになる。
藤谷英彦氏も自慢の喉を披露する。しかし普段なら抜群の彼も、SSKの綺羅ボシの前では案外目立たない。桜子さんも可愛い声を披露。石川良さんはもとプロの喉を披露。えいこさんは、エアロビ日本一のパフォーマンスを歌とともに披露、拍手を呼んだ。驚いたのはアケミ姉さんで、腰のすわった見事な演歌には、みなほうと感心のため息だった。
この喉自慢大会だが、どうもみんなモニターを見にくそうにしている。右に左に頭を振り、中にはぴょんと飛んだりしている。見るとテレビ画面の前に、頭を抱え、芥川龍之介になってしまったA井さんが、すわり込んでいるのであった。あとで聞くと、彼は最初の司会でトチってしまった不手際を深く反省し、落ち込んでいたのだと言う。そんなことはなかったのだが、やはり責任感の強い人である。
しかしここに、テレビ画面などいっさい必要がない、天才的歌い手が登場したのであった。菊池夏樹重役だ。彼は聞いたこともないど演歌を歌いなから通路を練り歩き、やんやの喝采を浴びる。歌詞はというと、「サカナはあぶったイカがいい」、と果てしなく同じことを繰り返している。続いておなじみ、「ナタリー」だ。女性たちが手に手にいろんなものを持って、店内のガラスの衝立手前に殺到する。重役は、これを次々に織り込んではスペイン語(?)で歌い、何もなくなったら延々猥褻な日本語の替え歌にする。彼こそは正真証明、文春の「発狂する重役」である。
その後彼は、SSKの美女軍団に分け入り、ご満悦のていであった。「いやみんな、格好いいですねー」と、銀座に行ったかのような錯覚に陥り、「特にこの人、言いますよー」と、タバコに火をつけてもらいながら、どめっちを指差していた。当意即妙の彼女のシモネタに、重役は深く感動したようだった。
この途中で桜子さんは帰宅した。M澤さんが下の道まで送っていったら、お父さんが迎えにきて待っていたという。こんな遅い時間まで外出したのは珍しくて、お父さんはご心配だったであろう。
以上のような首尾で、「龍臥亭の夕べ」は、今年もまた大変によい会であった。このような幸せ者の作家は、日本広しといえどもなかなかいないのではあるまいか。おしまいの挨拶で、このようなことに礼を言い、ハイレヴェルなSSKの雰囲気を一人で破壊していた文春の重役には、「来年はもう来ないでね」と釘をさしておいた。しかし重役少しもこたえず、「また言われちゃったよ」などと言っていた。あちこちで言われているらしい。
会はお開き、重役は帰し、今度はSSKだけで近くのカラオケ・ボックスにと繰り込む。これがまたすごかった。SSKの若者は、朝まで一刻の休みもなく曲を入れ、歌いまくっていた。ここでの圧巻は、Matthew青年の歌う「リンダ、リンダ」である。彼は今から壊れますと宣言し、言葉通りに荒れた。メロディーなど無視、ただ叫びに叫び、あちこちでジャンブし、カラオケ・ボックス狭しと走り廻った。これにはしゃくてぃ氏も度肝を抜かれ、続いて触発されて、マイクを持っていなくても顔を歪め、肉声でシャウトするのであった。
この頃になるとA井さんは、いつも程度に深く酩酊しており、ボックスに入り、「プカプカ」を1曲歌ったら、ごろりと横倒しになって、熟睡を始めた。そしてこの強烈なばかりの高音量でも、いっさい目覚めることはなかった。やはりこのところ、ストレスがかかっていたのであろうか。その中にあってえいこさんは、1人美しい詩の曲を何曲も歌い、彼女の好み、そしてセンスのよさが解った。
ここでは無礼講となり、タックさん、ビートニクス弁護士、Sキンの新管理人「よ。」さんも、目いっぱい歌っていた。村ドンさんが立ちあがり、マイクは腹のところに持って、「オーソレミオ」を本格的なオペラの発声で歌いはじめた。でも途中で挫折して、マイクを口のところに持っていき、1オクターブ下で歌いだしたので、みないっせいにずっこけた。
しばらくして、どめっちが歌っている時だった、熟睡していたA井さんがいきなりがばっ! と起きあがり、みなが息をつめて見守る中、ゆっくりと歩いて廊下に消えていった。そしてまたどめっちが歌い始め、酒宴が盛りあがり、A井さんの存在はみなの脳裏から消え去ったのだが、カラオケ・ボックスの店員が顔をちょっと覗かせ、廊下に誰か倒れているのですが、そちらの……、と訊いたらしい。ぼくのところからは見えなかった。店員は心不全かと思い、あやうく救急車を呼ぶところであったそうだ。
というような事件もあったが、そろそろ始発が動くな、ということでみなで表に出てみたら、朝ではあったが、まだ日は昇っていなかった。えびちゃんがぼくのところにやってきて、「ロンリー・メンを編曲して着メロにしたので、聴いてくださーい」と言って、携帯電話を掲げた。聴かせてもらうと、これがまた、メロディといいリズムの解釈といい、見事な出来であった。彼女はこの方面のプロなのだという。SSKには、本当に才能のある人が多い。
というような、朝までナマ音楽の、楽しい一夜であった。恵比寿の改札口手前で、「ではみなさんまた来年!」と言い置いて、ぼくはA井さんと2人、タクシー乗り場に向かった。この頃には彼は、もうばっちりと目が覚めていた。
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