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島田荘司のデジカメ日記
第93回
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島田荘司のデジカメ日記
11−20(火)、東大での鑑定は無理。
まず11月15日、はかた共同法律事務所の安倍尚志弁護士から、このような朗報が入った。

安部尚志です。
飯塚の裁判所に対する証拠物(カッターシャツ,丸首シャツ、パンツなど)の、還付請求の現状を報告します。
裁判所の押収物主任官と話をしていますが、主任官の話では、「還付請求をしてもらえれば、還付する方向で検討する」という趣旨の回答を得ています。私としては、還付してもらえるのではないかという感触を持っています。
そこで早速還付請求書を作成し、堀、高橋弁護士の印鑑をもらいました。秋好氏にも郵送で委任状を送っていましたが、本日、秋好氏の署名・指印をしたものが返ってきました。それで本日、還付請求書と委任状を飯塚の裁判所に郵送しました。
先日、私が押収物主任官と話した時には、「送ってもらえれば、少し検討の時間をいただきたい」と言われていたので、裁判所から回答が来るまで、もう少し時間がかかるかと思います。回答が来ましたら、ご連絡致します。
なお今後のことですが、押収物の返還を受けた時に、誰がどのように保管するかという問題があります。堀先生とも話したのですが、大量の記録や証拠物で雑然としている弁護士の事務所**-**は、長期の保管場所としてふさわしくないのではないかと思います。なくしたり、虫食いになると困ります。紛失、虫食い、変質をしないようにきめ細かく大切に保管をしてくださる適当な人がいないでしょうか。秋好氏にも相談しています。
2001年11月15日。   島田荘司様。

期待していなかった血染めのシャツが戻りそうだ。これが手もとにないため、新しい鑑定者を立てることができず、われわれは以前にこのシャツを鑑定した経験を持つ先生に三拝九拝するしかなかった。そしてこの先生が心変わりしたら、もうそれまでである。事実、そういう状況になっていた。
しかし、光明が見えてきていた。さらに今は、東大の精神医学科の、岩波先生もこちらの陣営にある。第一級のこの証拠さえ手に入れば、岩波先生の紹介で東大の法医学者にこれを鑑定してもらう。司法は権威に弱い、東大となればこの上がないのだから文句はあるまい、これで一挙に再審の壁も突破できる、とそんなふうに考えていた。しかし、事態はそう簡単ではなかった。11月20日、岩波さんからメイルが入った。以下のようなものである。これはぼくの胸算用を、あっさり打ち砕くものだった。

島田先生
先日は帰国直後でお疲れのところをお会い頂きありがとうございました。A井さんにも会うことができ、二重の喜びでした。
さて、血痕の鑑定の問題について進展状況をお知らせします。今のところ、残念ながらかんばしくありません。渡米前に精神科の先生から、法医学教室のA先生という方を紹介してもらうことができ、私の帰国直後に話をしました。A先生の話では、まず東大では血痕の鑑定については行っておらず、必要な場合はすべて他の施設に依頼をしているということでした。血痕の鑑定を行っている施設は、ごく限られているということです。
そこで、A先生から、東大から通常鑑定の依頼をしているB大の法医学教室に鑑定が可能かどうかコンタクトをとっていただき、本日返事をもらいましたが、現状では教授が不在なため、大きな事件は引き受けられないという返事だったということです。
A先生からのメールでは、他にいくつか可能性のある教室があるということなので、今週中にA先生と会って、具体的な話を聞いてみようと思います。
また、状況に変化がありましたら、ご連絡します。
岩波明

東大は駄目だった。予想しないものでもなかったが、期待が大きかっただけに、内心の落胆は大きかった。しかし、とにもかくにも血染めの証拠シャツが戻ってくるのだ。これさえあればなんとでもなる。気を取り直して、ぼくは岩波先生に返事を書いた。

岩波先生、
メイルいただきました。ありがとうございました。サンディエゴへの旅は、いかがだったでしょうか。
今日も、さっきまでA井さん、金田賢一さんと会っていて、今戻ってきたところです。金田さんとは「秋好事件」の話をしていました。これは長期戦ですからね、ゆっくりやるつもりでいます。ですから、東大が駄目でも気にしないでくださいね。ある程度、予想しないものでもありませんでしたから。
東大というと影響力が大きくなるので、大学側も、刑事事件への介入は避けたいところなのかもしれません。期待していたので、かなり残念ではありますが、しかし、気を取り直してやりますよ。もしまた何かよい結果が出ましたら、是非お教えくださいね。
機会がありましたら、是非またお会いしたいと思っています。12月1日の「龍臥亭の夕べ」については、A井さんの方から聞かれましたでしょうか。もしお時間ありましたら、担当の編集者がみんな来ますので、いらしていただけたら嬉しいです。でも、無理はなさらないでくださいね。また機会はあると思います。
ではお体に気をつけられて、お仕事頑張ってください。またメイルします。
島田荘司。

もうずいぶん昔になるが、東大法医学部名誉教授の、吉野亀三郎先生とおつき合いがあった時期がある。吉野先生が、由良三郎というペンネームで本格のミステリーを書いていらしたからだ。「秋好事件」に関わってから、吉野先生に鑑定を依頼したいと何度か考えた。しかし先生はもうご高齢になられ、引退されている。とても無理だろうと思った。岩波さんから、30分後に返事がきた。

島田先生
さっそくのご返事、ありがとうございました。
鑑定の件を補足します。私も今回いろいろあたってみてはじめて解ったのですが、法医学教室といっても、血痕のDNA鑑定を行える場所は必ずしも多くないというか、むしろ限られているのが現状のようです。実際基礎の研究室は、東大でも、常勤の職員(助手以上)でも4、5名しかポストがなく、限られた業務しかできない、というのは確かなようです。今回相談したA先生は協力的でしたが、東大の教室ではDNA鑑定自体をやっておらず、いわば「外注」の形で処理しているという話でした(先生のおっしゃるように、「刑事事件」に関係することを躊躇しているとい側面もあるかもしれませんが)。
そこで今後の方針ですが、以下のどちらがよろしいでしょうか。先生の考えをお聞かせください。

1、まず、東大などいわゆる有名大学にこだわらず、ともかく「鑑定」の業務を行ってくれる施設をあたってみる。
2、1とは逆に、地方の国立大学につてをたどって打診をしてみる。

いずれにしろ、いくつかの大学の精神科の教授には面識があるので、話を聞いてみることは可能と思います。またこれは、A先生の話ですが、大学のツテで話をもっていくよりも、直接弁護士の方から依頼する方が有効な場合もあるとのことです(学閥などの関係でしょうか)。
また費用的な面はいかがでしょうか。本格的な鑑定では、少額とはいえない費用(実費と鑑定料)がかかると思います。私もぜひカンパをしたいとは思いますが、精神科の司法鑑定の場合でも、鑑定料だけで50万以上はかかる場合が多いので、血痕の鑑定となると100万は超えると思います。
 (中略)
ところで、書簡集を読んでいまして、先生が、「一部の精神障害者、および精神病質者についてのみ終身刑を考えるべきだ」という趣旨の発言をなさっているのを読み、非常に共感いたしました。現在政府で多少の議論はなされていますが、犯罪性の精神障害者の問題は、いつも先送りにされています。この結果、措置入院が短期間で解除され、「殺人」の既往のある患者さんが、市中に蔓延(これは少し言いすぎですが)しています。このあたりにも、見せしめとしての「死刑」は存続させる一方で、犯罪性の精神障害者の「保安処分」は行わない(これは先進国で日本のみです!)、行政のダブルスタンダードが見て取れるように思います。
長々、いろいろと書いてしまいました。12月1日の件、都合がつけばぜひ出席したいと思います。鑑定の件、ご意見をお待ちしております。
岩波明

少し考え、翌日にぼくは以下のような返事を書いた。とにかく今は、金田さん―山住先生―K大Y先生、の線の首尾を待つのがよいと考えたのである。

岩波先生、
ご返事が遅くなりました。申し訳ありません。昨夜も、A井さんと午前3時過ぎです。これはデニーズで、ゲラを見ておりました。これにより、さんざん追いたてられた光文社「21世紀本格」のアンソロジーの仕事ですが、昨夜をもって私の受け持ちはすべて終了、一段落したものと考えています。
お伝えいただいた件、熟考しました。A井さんにはお伝えしたのですが、東大で鑑定がもらえないということになると、金田賢一さんの従兄弟の山住先生のご紹介で、K大学のY先生に鑑定を依頼すべく、弁護士が12月に関西に向かうことになっているのですが、この首尾を待った方がよいのではと考えます。
Y先生は、どうやら積極的ではないようですが、大学内で、短時間なら会ってもよいという回答です。また専門家が何人も関わって出した判決だから、誤っているとは考えがたい、とも言われています。むろんお気持ちはよく解りますが、現実はその限りではありません。
ともかくそういうことでしたから、東大という線が浮上するなら、即刻こっちに切り換えたいと考えていたのです。しかし今回これが駄目になった、そういうことなら、Y先生のの作戦がすでに動いている以上、こちらの結果を待ってから、岩波先生には動いてもらうのがよいというのが私の判断です。
もうひとつは、鑑定料の問題もありますね。百万近い金が2組となると、誰にもすぐに都合はできないと思います。私が原稿を書くなりして、なんとか作らなくてはいけないでしょうが、東大ということなら、いくら金額がかかってもやる価値がありました。司法というものは、世間的な評価のある権威には弱いところがありますから。
といったことですので、申し訳ありませんが、岩波先生にはしばらくお休みをいただき、事態を静観していていただけないでしょうか。弁護士の首尾は、私かA井さんから、逐次岩波先生に入れさせていただきます。
もしお会いできるなら、ゆっくりとご説明したいのですが、もう日にちも残り少なく、A井さんは「21世紀本格」のアンソロジーで、これからもしばらく追われることになるでしょう。A井さんとも相談してみますが、私が帰米を伸ばさない限り、再びの会見はむずかしいでしょうね。
12月1日、いらしていただけるなら嬉しいですが、ゆっくりお話ができないかもしれません。だからご無理なさらなくていいですよ。また来春にでもお会いできればと思っています。
いろいろとお心をくだいていただき、ありがとうございました。大変感謝しております。またお会いできる日を、楽しみにしています。
島田荘司。
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