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島田荘司のデジカメ日記
第90回
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11−13(火)、石塚桜子さん絵をいただく。
画家の石塚桜子さんとルノアールで会い、ぼくをイメージして描いたという油絵をいただいた。群青色をバックに、痩せた青年の上半身を描いた具象寄りの作品で、ぼくだとすれば20年も昔のぼくだが、抽象画の画家である桜子さんとしては珍しく解りやすい絵で、とても綺麗な色使いだったから気に入った。
そもそも桜子さんとの出会いは、もうずいぶん昔になった歌野晶午さんの場合と同じで、仕事場のチャイムが鳴ったのだ。東京にいる時、どうも宗教団体やセールスの類が多いので、チャイムにはあまり反応しないことが多い。別の部屋にいたら聞こえないのだ。しかしこの時は、たまたまインターフォンのそばにいたので出た。そうしたら、ファンなので、ちょっとお話させて欲しいという。聞けば、そばにご両親もつき添っての3人連れだった。そこで、駅前のルノアールで待っていて欲しいと告げ、後で行って会った。駅前に出る用事があったのだ。
4人で話すと、どうやらお母さんがずっとぼくの熱心な読者でいらして、娘さんの桜子さんも、影響でいつか読者になったということらしかった。お母さんも大変謙虚で人柄のよい女性だったが、桜子さんもそれに劣らず性格のよい人で、大変可愛いうえに一人っ子だったから、ご両親の愛情は、それは並大抵のものではないようだった。どのくらいかと言えば、桜子さんが美術に熱心な三鷹の高校に入ったら、一家をあげて大阪から東京に引っ越してきたというくらいにである。
彼女は子供の頃からとても絵の才能があり、東京造形大の油絵科にすんなり合格した。以来400ccのバイクで、雨の日も風の日も三鷹から大学にかよった。大学でも徐々に頭角を現し、教授が認める存在になって、個展もやったし、新聞にも出た。
この時、作品のファイルも持参してくださっていたので、見せてもらった。これが大変気に入ったので、編集者たちに紹介する気になったのである。桜子さんの絵は、すべて抽象画のジャンルに入るが、そのうちの何割かには人間の顔が現れていて、こういう方向のものは、商業美術的な領域にクロスした、つまりピクチャー・カードとか、本の装丁などにも使えそうな解りやすさ、端正さ、美しさを持っていた。作品は全体的に暗く、大きな抑えた力を秘めている。しかし先のような方向のものは、すっきりとデザイン作品のような美しさを持って、むしろ大勢の了解がとれそうだった。これなら、ぼくも協力できるだろうと考えた。
彼女は司書の資格を取り、働きたいと考えているのだが、ちょっと体が弱いので、ご両親は心配のようだった。それで後日のこの日、講談社のM澤さん、光文社のA井さん、文庫のT林さんをルノアールに呼んでおいて、桜子さんも呼んだ。そうしたらこの時、桜子さんがぼくを描いた絵を持ってきてくれていた。この絵はアメリカに持ってきていて、今仕事場に飾っている。
彼女は話し方が独特で、しっかりはしているのだが、どこか幼い、特有の話し方をする。そして自身は高度な純粋アートを追求しているのに、その種の気取りがいっさいなく、宮崎アニメの大ファンで、井の頭公園に最近できたジブリ美術館に早く行きたいと思っている。三鷹駅前からジブリ美術館行きのバスが出ているけれど、いつも満員なんです、などと言った。
M澤さんは以前少女漫画の担当編集者だった時代があり、絵には一家言がある。その彼女もファイルを一目見て大いに気に入り、作品を買うと言いだした。そして後日、三鷹の家を訪ねる約束までしていた。ぼくの方も熱心に誘われるので、生の絵を見たいし、もっと数を見たいから、ではWS刊のMatthew管理人と一緒に訪ねる約束をした。
光文社のA井さん、T林さんも、ファイルを熱心に繰りながら、彼女の暗く、底力を秘めた絵に感動しているようだった。彼女の絵の一部は、たとえば人間の脳の障害を扱った小説世界の扉などにふさわしく思われ、そう考えるとぼくは、たまたま先日、「21世紀本格」のアンソロジーのために「ヘルター・スケルター」という短編を書いていた。この作品を中心にして短編集を編んだ際、桜子さんの絵を表紙に使うのはぴったりだと考えた。そこでA井さんと2人、短編集「ヘルター・スケルター」上梓の際には、この作品のどれかを表紙に使わせてもらうとその場で決めた。
桜子さんとしては、純粋にアートとして、作品単体で評価されることを目指しているわけだから、そのようにしてもらうことが嬉しいかどうかは不明だが、ぼくとしては、とりあえずそのような協力しかできない。そうしているうち、石塚桜子さんがみなに名前を憶えてもらえればいい。彼女も喜んでくれているようだから、よかったと思った。
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