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島田荘司のデジカメ日記
第85回
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10−31(水)、光文社シェラザード財団文学新人賞の審査会。
帰国しての翌々日、新橋第一ホテルで開かれる、光文社シェラザート財団文学新人賞の審査会に出る。とりあえず、このために戻ってきたのだ。
早目に第一ホテルに入り、最上階のカクテル・ラウンジで休憩する。新幹線の線路が眼下に見下ろせる、なかなか気持ちのよいラウンジだった。ここには何度も来ているのだが、こんなよいラウンジがあったとは知らなかった。
審査会が始まる前に、ここでデザイナーの多田さんと、吉敷シリーズの新装丁、および「21世紀本格のアンソロジー」のための装丁の打ち合わせをする。後者はSSK、「奇想の源流」サイトのtenさんのCG作品がすでにあがっているので、多田さんが、これを用いてどのような構成に料理をするかという話である。すでに試作を何点がもらっていて、これをこちらで選択することになる。選択には、カッパ編集部、また光文社販売部の意見も取り入れる。
吉敷シリーズの方は数が多いので、構成材料としての瀟洒なアンティーク写真を集めるのに苦労したようだ。多田さんの相棒のデザイナーは、どうやらかなりヘソを曲げているふうで、多田さんはこのプレッシャーを背中に背負って、大阪から上京しているといったふうだった。たぶん点数が多く、しかも急がされ、その割りには払いが安いのであろう。その気持ちも解るので、なんとかなだめる。しかし表紙は、双方ともによいものがあがりつつあったから、この点には大いに満足した。
階下に降り、審査会場に入る。今回の審査会は、「posse」、「戦火いまだ止まず」、「太閤暗殺」の3作が候補だった。実は当初4作だったのだが、1作が他賞との二重投稿であったことが解り、失格したのだ。
この人の名誉のために言っておくと、おそらくこの規約を知らずにしたことであろうと思う。次からは気をつけてもらえたらよい。こちらとしては読む作品が少なくなり、今年は楽ができた。
審査を終えての感想を言うと、毎回思うことだが、小説作りの新しい方法が示されない。これは考えようによっては憂慮すべきことで、最近出会う賞の候補作の多くは、小説のピースがほとんどすべてパターンという、なかなかに驚くべき事態が続いている。これは冒険小説寄り、あるいは一般小説寄りの賞に、よりこの傾向が強い。本格の鮎川賞には割合それがない。本格とは、ある程度定型の器の別名であるから、この逆転現象はこれまたなかなか驚くべきことだ。
かつて新本格と呼ばれたムーヴメントの諸作も、積み上げていくブロックは汎用品でも、最後の一個がとんでもなく変わっていたり、全体の構成意図に、パターンと見せて、意表を衝く仕掛けが施されていたりしたものだ。
光文社系の本賞は、冒険小説寄りの賞と心得られるせいか、徹底してパターンで攻めても、割合恥じる様子がない。まあ、これはこれで潔くて時に面白いが、そのパターンがこちらの好みの範疇にないと、やはり楽しみにくい。またこのやり方で世に出ても、活躍がイメージしにくいし、状況を前進させてくれそうだという期待感も持てない。
残念ながら今回、典型的にその傾向が見えた。「posse」は上手な柔らかい文体で、読みやすかった。しかし引退したもとカミソリ刑事、胡散臭い海千山千の興信所探偵、これにからむファッション・ヘルス屋、その外側のヤクザ組織と、人情味あるその親分、といったいかにも図式的な構成で、犯罪動機や、骨組みの構築にも新味はなかった。プロレス観賞のように、そういう定型こそを好む人もいるだろうから、これはこれでいいのかもしれないが、個人的には、やはり強くは感心できない。また賞ということを考えれば、そういう作品が授賞することに賛成はできない。やはり小説の評価には、創作であることも評価軸に入れたい。日本の場合、この割合が低くなるのは容認するが、ゼロとはしたくない。しかし23歳という若さからすれば、よくまとまっていたとは思う。
「戦火いまだ止まず」がまた、おそろしいほどのパターン連射小説で、この作の場合、この潔さが熱気になっていて、これはなかなか楽しめた。同じ畑の大沢在昌氏などは、この小説を大いに買い、絶賛するのだが、誉めている端からアラが見えてしまい、「雨が降った? ちょっと待て、そりゃ雪だろう、冬のシベリアだぞ。溝を這っていく? 途中にゴミ取りの網はなかったのか? 命がけの山越え、え、もう終わったの? こいつ立って闘ってるけどさ、さっき肩と腿、撃たれなかったか? それにしてもこいつ、全然メシ食わないんだな」などと、ほとんどギャグのような選評となった。
しかしそれでも彼は、これに本賞をあげてもいいと考えており、意外にも夏樹静子さんもこれに賛成して、大勢はそれで決まりかかっていた。しかしぼくは賛成ではなかった。面白いとは思うし、出版はしてもよいと思うが、細部があまりにボロボロなので、大賞には値しないという意見だった。
「太閤暗殺」の良さは、述べれば先の新本格の美点に似てくる。太閤秀吉や、石川五右衛門が登場する話なので、話の進行はどうしてもおおよそ決まってしまう。また彼らの性格も、そうとんでもないものには設定できない。台詞もまあ定型の言い廻しに傾きがちで、よって前半は、退屈なまでに定番進行であったかもしれない。大沢氏なども、この作品の登場人物はあまりに華がない、この人の筆は、世に出てもずっとこのままだろうと評していた。
しかしそういう定番の駒を使い、定番の動きをさせていながら、全体としては、難攻不落の要塞攻略もの、いわばハリウッド・アクションのような切れ味が見えていた。後半は特に、意表を衝くどんでん返しが連続してなかなかに楽しめたし、また本格探偵趣味の牢抜け、頭脳トリックもあり、この趣味にも好感を持った。こういう新しめの設計図と、時代劇ふう部品という組み合わせに、前代未聞ではないものの、新味を感じた。そこでぼくはこちらを押した。
赤川次郎さんもこの作品の点数が最も高かったので、赤川・島田組対、大沢、夏樹組のような対立になった。しかし司会役のカッパノベルス編集長、八木沢氏も「戦火」を押すと明言し、赤川さんも、他作品の点数が「太閤暗殺」よりもさらに低いというだけで、格別この作品を押しているということではなかった。ぼくはこの中では「太閤」しかないと考えていたので、これはちょっと今年は具合が悪いかなと思っていたら、最後には大沢氏が自分で折れてくれ、ずっと冒険小説の授賞が続くのは、この賞のためにもよくないな、ここらでちょっと本格寄りの「太閤暗殺」に賞をあげるのもいいかもしれない。ボロボロの「戦火いまだ止まず」は、むしろどん底からスタートし直してもらうのが、この作品にはふさわしいのかもしれない、などと言ってくれて、大勢は決した。一時は大賞なし、昨年に続いて佳作のみという判定に傾きかけていたので、この結果は光文社のためにもよかったと思う。
今年は新メンバー加入の年で、夏樹さんとぼくは残留組、大沢さんと赤川次郎さんが今年からだった。大沢さんは割合親しい方だが、赤川さんは親しく話すのはこれがはじめてだった。しかし話してみると、彼はなかなか気の合う人だということが解り、嬉しかった。
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