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島田荘司のデジカメ日記
第56回
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島田荘司のデジカメ日記
4−13(金)、神田、葡萄舎。
俳優の中尾彬さん、池波志乃さんご夫妻とはたまに会う機会があるが、この日は脚本家の石川良さんと、以前に「嘘でもいいから殺人事件」の舞台化の時に知り合った俳優の坂俊一さん、それに金田賢一さんという5人で集まった。場所は神田駅近くの飲み屋、葡萄舎だった。これは石川良さんが以前からのなじみにしている店だ。
なかなかよい店で、オープン後、客が少ないうちは床の大きなスピーカーからブルースが流れている。マスターは、突き出しにも演劇にも、客筋に関しても一家言がある人物で、なかなかの論客でもある。気に入らない客は、店内ががらがらでも追い返すという噂が常連客を大いに感動させていて、定着したファンが多いらしい。また珍しい魚を仕入れていたり、はじめて来た時には、北海道から鹿の肉が入ったといって出してくれた。この日も、呼び名は忘れたが、タコの料理が凝っていて、中尾さんは誉めていた。
最近の中尾彬さんは、役柄上強持ての印象が強いそうだが、そうだがというのは、ぼくは日本のテレビや映画を観る機会が少ないのでよく知らないからだが、実際の彼はそういう様子とは全然違っていて、本当に腰の低いよい人である。有名人気取りとか、威張った感じなどがいっさいない、非常につき合いやすい人物だ。これは奥さんで、今やSSKのメンバーでもある池波志乃さんもそうで、本当によい夫婦であると会うたびに思う。ぼくにとっては、もっか最も大事な友人たちの一人である。
坂さんの劇団の女性が一人遅れてやってきて、みなで自己紹介となった時、中尾さんは自分のことを、「ヴァラエティの中尾です」などと言っていた。最近はヴァラエティ番組への出演が多いらしい。しかしこれもまことにもっともで、彼は勉強家であり、趣味人で知識も深いから、番組は専門家を呼ぶ必要がなくて、この点からも重宝されているのではあるまいか。
人柄がよいという点に関しては、金田さんも坂さんもまったくそうで、このような有名人たちが、これほどに人柄がよいことには、会うたび嬉しくなる。言うまでもないが、石川良さんもそうだ。
中尾さんは、最近惚れ込める主演の仕事が少ないようで、中村刑事の「火刑都市」をやりたいと、志乃さんを通じて言ってきてくれた。読者には意見もあるかもしれないが、ぼく自身はこの提案を大いに歓迎している。中尾さんは頭脳もあるし、いざ捕り物となれば腕力も辞さない捜査官としての威圧感が、低く太い声や、体からよくにじんで感じられる。よい中村になれる人と思う。
最近、テレビの業界にも誤解が多いそうなので、この際明言しておきたいと思うのだが、ぼくはすべての自作の映像化に反対しているわけではない。ただ御手洗ものの映像化だけを辞退しているのである。理由はすでに述べているので繰り返さないが、適当に妥協して映像化に応じれば、無名の御手洗とやらがそんなに大した者なのかという現在の批判の、おそらくは数十倍の不平が出ることであろう。毎度のことであるが、そうなってから、先の人たちがこの不満を引き受けてはくれない。
ぼくは映像が大好きな人間なので、御手洗もの以外の作品は、積極的に映像化を望んでいる。またそのための協力は何でもすると、これもあちこちで明言している。たとえ御手洗ものであっても、日本社会の人情が柔らかく変化し、英米程度に明るくなれば、御手洗の態度を威張りと早とちりしない国際型の脚本家、監督、俳優も現れるであろうから、そうなったら是非映像化して欲しいと願ってもいる。しかしそうできるのは、たぶん未来であろうとも悲観しているのだが。
創作上大事なことと思うので、今度は主として新人賞に挑戦する可能性を持つ在野作家に向かってひとこと言い添えておくと、たとえばチャンドラー型のハードボイルドは、格好よく威張る男の美を追求した小説という日本型の勘違いが割合世間に生き残っているが、これはまるきりの正反対というもので、あれは威圧をウィットでやりすごし、当人はいかに威張らずに粘るかという、男の格好よさを追求した小説のことである。
金田賢一さんは、吉敷竹史をやりたいと切望してくれている。彼も頭脳があり、威張ることに興味のない魅力的な人物なので、そうできればとぼくも願っているのだが、しかしいろいろな事情から、これが今はむずかしいようだ。一方中尾さんの方は明らかに今が旬で、露出度、知名度、人気、どれをとっても充分なものがあり、よっておそらくは実現するであろうと思っている。ぼくとしては、大事な友人二人が、中村をやり、吉敷をやりしてくれたらまったく言うことはないのだが、事態はなかなかそううまくは運んでくれない。ついでに石川さんが脚本を書いてくれたら、日本の映像世界によい提案もできると思っているのだが。
「マジソン郡の橋」の公演で明日は朝から旅に出るということなので、金田さんはこの夜、早めに帰っていった。あとは中尾さん夫妻と坂さん、石川さんとで、終電近くまで楽しく飲んだ。
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