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島田荘司のデジカメ日記
第40回
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島田荘司のデジカメ日記
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2−18(日)、ターリックに結婚式の写真をプレゼント。
アメリカで、ちょっといいなと思うこと、日本と違っているなと思うことに、額縁の種類が豊富で安いということがある。これはつまり、額縁の需要が高いということである。こちらで弁護士、医師、税理士、学校長などのオフィスを訪ねると、デスクとかデスク脇のカウンター、棚などに、妻や子供、ガールフレンドの写真が置かれている。これはどうも、どんなオフィスに行っても例外というものがない。男性も女性も、またどんなお年寄りでもそうで、パートナーや家族に対する愛情が感じられてよいものだ。たぶんこれは、オフィスでの不倫防止の意味あいもある。
日本のオフィスでは、照れもあるのだろうが、こういう光景はめったに見ない。もっともその前に日本のオフィスはたいてい大部屋で、個室というものが少ない。アメリカのオフィスは、大部屋の場合でも各自のデスクが衝立で囲われていたりする。かつての三浦和義事件の時、暴漢に襲撃される三浦夫婦を遠くから目撃していた電気水道局員のオフィスが、各スタッフ個室の形式でなく、日本ふうの大部屋だったので珍しくて話題になった。
ともかくそういうことなので、額縁の需要が高く、食料品のスーパーマーケットにも額縁を売るコーナーがある。出廻っている数が多いので、値段も安くなる。9×10インチ、日本式に言うと20×25センチのけっこう立派な額が、10ドル99で売られている。こちらのプリンターで、デジカメ写真をめいっぱいに拡大してプリント・アウトすると、この額縁より少し大きいくらいになるから、端を少しだけ落とすと、この額にうまくおさまる。
先日のターリックの結婚式のデジカメ写真をプリント・アウトし、スーパー、Kマートで買ったこの10ドル99のわりと立派ふうな額に入れて、カーリックにプレゼントすべくスター・ファラフェルに行った。これならデザイナーの彼女が、自分のオフィスに置いておくのも悪くない。
ハニーは元気で仕事をしていて、ターリックは元気? と訊くと、うん、大丈夫なんじゃないかなと言う。今彼はと訊くと、隣にいると思うから、そのうち来るよと言う。それでターリックの写真入りの額を、厨房のカウンターに持っていってハニーを入れ込みで写真を撮ったり、テーブルに飾って眺めながらチキン・シャウェルマ・サンドウィッチを食べたりして、ターリックが現れるのを待った。
彼の奥さんは元気かいとハニーに訊くと、うん、今ライト・エイドのレジで働いているよと言う。ライト・エイドというのはドラッグ・ストアのチェーン店だ。あれ、建築関係のデザイナーじゃなかったのかいと問うと、ぼくは知らないよと彼は言う。あの奥さん、わりと嘘つく人みたいだ。でもターリック、車持っていないからね、いつも奥さんに送ってもらってここにやってくる。グリーンカードも必要なんだし、いいんじゃないのかな、とハニーは言う。結婚十日にして、なんとなくおかしな雲行きになっている。ライト・エイドのレジでは写真立てを置く場所はない。しかし結婚などというものは、たいていどこか、こんなばかし合いの要素を持つのだろう。
ターリックは若くてなかなかハンサムだから、東京に行けば日本のギャルに人気が出るだろう。一方マージィは太っているし、すでに4人の子持ちで、結婚は3度目だ。年齢もそれなりに高いし、多少の粉飾は施さないと、なかなか相手は見つからないのかもしれない。でもターリック、全然気にしていませんとハニーは言う。まあターリックは、確かにそういう楽天的なところがある。結婚というイヴェントをさして重大に考えていないし、戸籍が汚れるといった発想は彼らにはない。戸籍に対しても「汚れる」という発想を持つことがまた、日本人に特有の穢れ忌避発想の範疇にあるのかもしれない。しかしむろんこの体質が鮨を産み(発明は日本人ではないが)、優秀な半導体を作り出しもした。
ターリックがやってきた。相変わらず陽気で、いつもハーイと言って握手を求める。こっちが握手できない位置にいたら手を振る。額に入った写真をプレゼントしたら、大喜びで見入っていたが、ぼくはもっと上を向けばよかったなと言った。ああそれもいいけど、これもいいでしょとぼくは言った。実は上を向いた写真もあったのだが、彼が下を向いたこれが、ウェディング・ケーキ屋のポスターみたいで気にいったのだ。
彼らの顔は濃いから、やはり写真が様になる。奥さんのマージィも、この宵はしっかりとお化粧して、キャシィ・ベイツそっくりだった。実はこの日ではないのだが、彼女がターリックを待って一人店にすわっていたことがあり、入っていったぼくはハーイと笑いかけられて、反射的に笑いを返したものの、当分の間誰だが解らなかった。ずいぶんと人懐こい女性だなと思っていたが、いなくなってから、ああ、あれはターリックの奥さんだった! と気づいた。お化粧を落とすとまったく解らないのだ。
ターリックはお礼に、隣のクシユウからキュウリ巻きの鮨を持ってきてくれた。これは周りに、海苔でなく薄く切ったキュウリの皮を巻いてある独特のもの。カリフォルニアに特有の鮨である。でももう食べられなかったから、これは持ち帰って家で食べた。
日本ではこんな鮨は見ることがない。同じものをじっと生産し続ける美学というものをアメリカ人には理解できず、そんなアメリカ人の発想がこんな新型鮨を作らせた。ちなみにアメリカ人は、黒い紙みたいな海苔を気味悪がる傾向があり、小皿に味付海苔などが載っていると、これは何だと不気味そうに訊いてくることがある。
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