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島田荘司のデジカメ日記
第38回
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島田荘司のデジカメ日記
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1−12(金)、金田賢一氏と「嘘でもいいから殺人事件」の稽古を観にいく。
俳優の金田賢一氏と、久しぶりに新宿の喫茶店カフェ・ラ・ミルで会った。彼は少しも変わっていず、老けた様子も全然ない。相変わらず淡々と語り、有名人気取りの類をまったく感じさせず、インテリで、作家の友人と会っているのと変わらない。ハリウッドのSAG(スクリーンアクターズ・ギルト)の話になったら、日本にも世界一弱い俳優連盟がありますよと言った。出演した映画が再放送になっても、版権が払われるのは監督ばかりとか。
この時ぼくは、プレゼントのために「季刊島田荘司」を持ってきていたのだが、鞄から取り出すと、あ、実はこれ、もう読んでいるんですよと言ってくれた。以前にぼくが、冗談めかした舞台でなら、御手洗さんをやってもらってもいいですよと彼に言っていたので、どれが舞台にあげられるものかなと、ベッド・サイドに島田作品をうずたかく積み、明け方まで再読してから眠る毎日なんですということだった。まったく恐縮する。
それから新小岩まで付き合ってもらい、舞台稽古を観にいく。ここの小学校を借りて、友人の脚本家石川良さんが、拙作「嘘でもいいから殺人事件」を戯曲化、演出してくれている。石川さんいわく、私が島田さんの知り合いだと言ってもみんな信じないから、一度稽古場に顔を見せて欲しいという。そんなことはおやすい御用で、私などでいいならいつでも行くが、そういうことなら有名人の金田さんをともなえば文句はないであろうと考えた。金田さんは快く承知してくれる。
顔の売れた人は、電車などに乗っても大丈夫なものであろうかとこちらは心配したが、登山帽を目深にかぶり、眼鏡をかけてダウン・ジャケットの襟をたてれば、1メートル80の長身にもかかわらず、案外目立たなくなるものだ。ドアの脇に一緒に立っていても、周囲からじろじろ見られるようなことはなかった。
お父さんの金田正一氏について訊く。以前彼と渋谷の喫茶店で会った時、そこまで父と一緒にきたんですよと言われて、これは店の前で待っていればよかったと悔しい思いをしたことがある。何といってもわれわれの子供時代、王、長島、金田は別格の英雄だった。今金田正一さんは、監督はやりたくないと言って、名球会の仕事に力を入れているそうだ。こちらで講演とかテレビ出演の依頼が多いという。
野球選手になる気はなかったのですかと賢一さんに訊く。これは以前から気になっていた。親父、ぼくは才能ないと思ったんじゃないですか、と彼は言う。この体格だからそれは嘘だろう。実態は、誘拐の危険があって、とてもではないが表で野球などさせてはもらえなかったらしい。一度など、息子を誘拐したとして身代金を要求する電話が家に入った。しかし実際には誘拐されていず、ひょっこり帰宅したから家中が大喜びしたそうだ。そんな様子なら、確かに野球どころではなかったろう。当時の金田人気は現在のプロ野球選手の比ではないし、日本列島は今よりはるかに貧しい時代だった。しかしそんな事態が、二世名選手の出現をつぶしたかもしれない。まあ代わりに有名俳優を生んだわけだが。
小学校は少し解りにくかったが、金田さんの携帯電話で石川さんの携帯と連絡を取り合い、無事たどり着いた。稽古はまだ初見に近い段階で、立ち廻りは含まれず、全員が椅子にかけて脚本を読むだけの稽古だった。役者さんたちは坂(ばん)企画の俳優さんが中心で、主宰はNHKの名脇役でならしている坂俊一さん。当然彼が、最重要の登場人物である軽石三太郎を演じる。読み合わせも、ベテランの彼の番になると安心して観ていられる。
タックこと隈能美堂巧役はハンサムな中西修司氏、田村高麿役には木下貴仁氏、この二人の演技は、以前に新宿の舞台で観せてもらった。大変魅力のある役者さんたちだ。それから幽子役の鈴木今日子さんも、この芝居の時にロビーでお会いした。彼女は、時にこのSSKサイトに書き込んでくださってもいる。みんな上手な人たちである。
非常に大人数の芝居で、犯人当ての要素もある本格探偵仕立てだから、これはありがたいことだ。本職の歌手の人もおり、美人型の女優さんも大勢いて、よい舞台となりそうだ。本番は2月22日から25日まで、築地本願寺のブディスト・ホールとなる。本番が楽しみなことだ。
今夜の稽古は、ひと通りの読み合わせだけで終了。坂さんと石川さん金田さんで近くの居酒屋に行って近づきの一杯をやる。金田さんが、これは坂さんに差し上げたらどうでしょう、ぼくはもう持っていますからと言って、さっきの「季刊島田荘司」を鞄からとり出してくれた。その様子を見て石川さんが、金田さん、島田さんのマネージャーみたいと笑った。
坂俊一さんとは、ぼくも金田さんも初対面である。あらためて石川さんに紹介してもらう。彼は大変な苦労人であり、通好みの渋い演技で業界に知られるが、苦労の跡を決して他人に悟らせない人柄のよい人で、われわれは生ビールで一気に意気投合した。
ぼくにはNHKのドラマで忘れられない名作がいくつもあるのだが、そのひとつに、ジョージ・チャキリスが小泉八雲を演じた「日本の面影」という連続ドラマがある。むろんヴィデオに撮っていて、以前は繰り返し繰り返し観ていた。坂さんはこれに、檀ふみさんが演じたお節の、病弱な兄として出ていたそうだ。これは気がつかなかった。時代劇だと鬘などの扮装で、こういうことがよくある。おおそうでしたかと固く握手。ますます意気投合する。出番は少ないが、とても印象の強い役どころだった。セクハラの坂で通っております、好色男の役柄が多いんですと彼は自分を言うが、どうして大変いい仕事をしている人だ。
金田さんは、坂さんとも世界一弱体という日本の俳優連盟の話をしていた。そのうち、金田さんもまじえて何か企画したいものですねとぼくが言った。これに池波志乃さん、中尾彬さんなども入ってもらったら最高である。きっと見事な舞台になるであろうから、そのためにはどんな努力も協力もおしまない、などと力説していたら、ふと気づけば時計は零時を廻っている。金田さんと二人、大あわてて終電に飛び乗って途中まで一緒に帰った。大変楽しい夜だった。
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