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島田荘司のデジカメ日記
第35回
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1−8(月)、雪の井の頭公園。
昨夜から降り続いていた雪は井の頭一帯を銀世界にしたが、朝にはもうやんでいた。あれからたぶん、中華街も真っ白になったろう。
「龍臥亭の夕べ」のため、六本木のライヴ・クラブ「水曜日の朝」にぼくが出かけていく頃には、積もった雪はもう溶けかかった。吉祥寺駅を目指して井の頭公園を横ぎる頃、もう陽も落ちて薄暗い時間帯となったが、足もとの石畳は濡れながらもすっかり露出して、歩くことに支障はない。しかしあちらこちらの植込み、木々の枝の上、道のはたには夜目にも白く雪が消え残り、見知らぬ場所に来た心地がする。
橋を渡れば、水面を撫でてくる風は痛いほどに冷たく、黒い水に映じる街灯の明かりは細々と寂しげだ。遠くの木々はすっかり葉を落とし、景色は寒々とする。
これまで何も感じなかった井の頭公園の四季だが、遠く外国に居を移して眺めれば、非常に心の動くイヴェントに思える。青々と萌える夏の葉、桜の春の、水べりにかぶさるようにして咲く薄桃色のたわみ、雨の季節のしっとりと湿った木々の匂いや、冬の暗く寒々とした風情は、渇いたカリフォルニアにはない味だ。
アイスクリーム屋のドナテロウズや、焼き鳥の伊勢屋に向かってあがっていく石段も、いつもとは違う夜の気配をにじませる。厳しいが、奇妙な清潔感がある。それが雪の夜だ。
井の頭公園を背後にして公園通りを行くと、月曜日のせいもあるが、公演通りは珍しく閑散とする。ブティックの前に、小さな雪だるまが作っておかれている。雪がわずかだから、こんな可愛いものしか作れない。
これからぼくは、新年のイヴェント「龍臥亭の夕べ」のために電車に乗る。中央線から地下鉄に乗り換えて六本木に出る。ROAビルにほど近いライヴ・クラブ「水曜日の朝」に向かう。ここはジャズのライヴをやるので、ステージや照明の機材、グランド・ピアノやPAの設備がある。
メインはむろん大島美智子さんのコンサートで、ピアニスト大島さんの自作自演による「龍臥亭組曲」の演奏だが、会場でぼくは挨拶をしたり、大島さんの演奏の後はカラオケでプレスリーやビートルズを歌って場を盛りあげることになっている。はたしてうまく行くか。司会は光文社の穴井さんが担当してくれるのだが、なかなか責任重大だ。
カラオケ・タイムは、ただみなさんお願いしますとやるといたずらに時間がかかるので、純文学出版社、文芸春秋のシャンソン芸人菊池夏樹重役(これは洒落ではなく、本当に重役である。ついでに言うと、彼はあの文学界の巨人、菊池寛氏の孫だ)、光文社の突撃エンターテイナー、穴井充則カッパ副編集長(この時すでにそう内定していた)、それにアメリカから来たジョン・エルヴィス・マッカートニーのぼくなど、最初に歌う人を決めてしまい、早目に行ってこれらの人の曲目を決定し、歌の数字を書いて店の人に渡してしまう。そうして少なくとも冒頭の進行くらいはとどこおりなく進むようにする。そうして後半は、聴衆自由参加とする計画だ。
残念なことは、新宿御苑の歩くタレント年鑑、T橋虫麻呂原書房第三編集部長(こうして書くと、みんな偉い人ばかりである)をこの中に加えられないことである。彼は今ごろ京都で知り合いの葬式に列席している。
SSKの世良公則、しゃくてぃさんにもこの最初のグループに入ってもらうつもりで、したがって彼には打ち合わせのために早目に会場に来てくれるように頼んである。だからぼくも早目に行かなくてはならない。井の頭公園の雪の風情をのんびり楽しんでいる時間はない。
来てくれる人たちは、昨夜の横浜オフの参加者たちの一部、池波志乃さんもまたいらしていただけるようだし、各出版社からは社長、部長、次長、編集長クラスがずらりと列席することになる。イスラム原理主義者が「水曜日の朝」に爆弾をしかけら、日本からミステリー出版文化が消滅しそうである。
ぼくとしてはお偉方に気を遣っていただくことは本意ではないのだが、穴井さんが招待状を出してしまった。文春は今年書き下ろしをぼくに依頼している関係で、ちょっと断れないであろう。そう考えれば脅迫しているようで心苦しいことだ。
六本木で地下鉄を降りたら、ホームの壁に内田有紀さんの化粧品のポスターが貼られていた。今から行く店のオーナーは、この人のお父さんである。日本から離れているので、有名女優の内田さんのお父さんのお店と言われても、内田さんの顔が浮かばず困ったが、このポスターでようやく思い出した。
マスターはがっしりとした男性的な体格で、半白の髯をはやし、太い声で明瞭な発声をする。芸能界の人ではないのだろうが、こういう様子はぼくの知り合いでは夏木陽介氏、中尾彬さんなどに共通する特徴だ。演技の訓練のたまものなのであろう。聞きやすく、この人を魅力的に見せる。
マスターもまた魅力的な人物で、陽気で人なつこい印象を周囲に発散しながら、ただ者でない気配を感じさせる。
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