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編集室の窓から
島田荘司のデジカメ日記
第295回
島田荘司のデジカメ日記
11−4(土)、吉報届く。
講談社BOX、O田編集長から、待ちに待った報告が届いた。

島田荘司様
島田さん、吉報が届きました!
士郎さんが、「大河ノベル」のお仕事の依頼を引き受けてくださるそうです!!

あれから約束通り、士郎さんからお返事が来るまで1ヶ月ほど待たなければならないと覚悟を決めていたのですが、昨夜士郎さんから突然お電話があり、この「大河ノベル」という企画に対す る編集部としての考え方と、ぼくから見た「何故自分(士郎さん)を島田さんが選んだのか?」という問いかけに対してご意見を伺いたい、とおっしゃり、そのまま1時間ほど、熱のこもった打ち合わせを持ちました。
前者の問いについては、一貫して、
「士郎さんの才能とお気持ちのおもむくまま、従来の『本』のイメージを超えて、講談社BOXを舞台に、自由に表現して欲しいと考えています」
とご説明いたしました。また後者の問いについては、島田さんからいただいたメールを読みあげたりしながら、
「島田さんは士郎さんに、『ああ描け、こう描け』などと言うお気持ちは、いっさい持っていらっしゃらないと思います。島田さんはまず純粋に士郎さんの絵のファンであり、士郎さんの才能とご自身の才能が、ひとつの作品を舞台にぶつかり合う果てに何が生まれてくるのか、を心から楽しみにしているのであって、それが士郎さんをお選びになった第一の理由だと思います」
とお答えしました。
士郎さんはあれから、島田さんの作品をさらに読み込まれたようで(私がお渡しした『ネジ式ザゼツキー』のあとがきにあたる、島田さんのマンハッタン建築論まで読んでいらっしゃいました)、実際の完成原稿がないながらも、島田さんからいただいたイメージ・スケッチを手がかりに、かなり密度の濃い応酬ができたように思います。
まず、実際の仕事量としては2008年刊行の全6冊のイラストであり、1冊につき、表紙のシール用カラーを1点、カラーの綴じ込み口絵を1点、そして1色のイラストを数点……、といった基本ラインの確認に始まって、島田さんのご希望である、「できるだけ漫画に近づけたい」というリクエストもきちんとお伝えしました。そしてその結果、最後には、
「お引き受けいたします」
とのお言葉を、無事いただくことができました。
ぼくも本当に、心から嬉しいです! ぼくが受話器を置いた時、編集部には、K田をはじめとする喝采の声が、いっせいにあがりました。
士郎さんは、
「実は、お話があった時から、これはお引き受けするほかないと考えていました」
とおっしゃってくださり、
「島田先生にどうかよろしくお伝えください。士郎正宗は、江戸鋼鉄城を描きます!」

と力強く宣言してくださいました。
ご報告は取り急ぎ、以上でございます。

島田さんと士郎さんという、超強力タッグの結成を前にして、編集者として、「世界のドアが開いているのが見えた!」という心地がしております。
お2人のお力に少しでもなれますよう、編集部一丸となって、今後とも一生懸命頑張ります。
講談社 O田K史
追伸
島田さんの本は、O田とK田から士郎さんまでお送りしておきますので、どうかご安心くださいませ。

これには驚き、また感動した。まさかと思っていた承諾であったし、しかも予定よりもずいぶん早い返事だった。O田氏も興奮していたようだったが、こちらもよしと思い、大いに燃えた。これでいける、という思いである。北米進出も、これで夢ではなくなった。
まあ正確にはぼくも、「The Tokyo Zodiac Murders」で北米進出はすでに果たしてはいるのだが、メジャー感覚では今度のものの方がずっと上だ。またアメリカ側の出版社が、世界最大級の販売網を持つ、NYランダムハウス社なのだ。奮いたつ心地がして、それですぐに返事を書いた。

太田さん、
やりましたね。なんだかすごいことになりました。まさに私も、「世界へのドアが開くのが見えた!」という心境です。
まさかと思っていたことが、実現するものですね。これは、ひょっとしたらひょっとするかもしれません。

ぼくは士郎さんの絵の、高品位な塊り感表現、そしてビリーヴァブルなメカ感覚が大変好きなのですね。
かつて士郎正宗さんの絵を見た時には、非常に驚いたものです。まずは女の体の塊り感覚が見事で、これはロボットとか、未来型自動車のデザインの、ビリーヴァブルさともつながります。こういった見え方は、これは天性のものだろうと思います。メカの見え方にも大いに説得され、こんな漫画家も出てきたのかと知って、日本の漫画世界も進んだものだなあと感心しました。
士郎さんがやってくださるなら、ぼくはむしろ彼のメカ画を効果的に盛りあげられるように、黒子的になって物語を構想、展開をするというふうにしてもよいなと感じています。アメリカ野郎のスピード感性に立脚し、アイドル映画の監督みたいな気分も、ちょっとしていますね。スターの魅力を最大限に引き出したい、というような感覚。

江戸シティについて、以下でもう少し書くと、ひとつにはこれは、要するに「明治維新が起こらなかったなら」、というシミュレーションでもあります。
阿部正弘が長寿であれば、薩摩の島津とは彼は親友ですから、薩摩藩士が江戸城に弓を引く展開になろうはずがありません。
彼とアメリカとの関係も大いに良好で、彼はペリーから、個人的に贈り物もたくさんもらっています。勝海舟の海軍総連所に渡った蒸気機関車の模型が燃えてしまったのは残念至極ですが。阿部とその子孫が、その後も合理的で的確な判断を続けられたなら、アメリカとの関係も、友好裏に続けられた余地があります。
たとえばこれはSF的な空想ですが、日本には伝統的に木の文化しかない。このままでは今後、軍事的に脆弱だ、と幕府陸軍部は考えます。そこで、「木の部分はすべて鉄に置き換えるべきだ」、と発想します。
するともともと日本式の構造物は、西欧の石造りの建造物に較べれば、遥かに発想がシンプルで、ゆえに高層化発想につながりやすいわけです。出雲大社には、上代にすでに高層の木造神殿が実在したといわれます。最近の発掘調査で、これがほぼ立証されました。
江戸ふうの建物、民家、これらの骨格をになっていた木材部を、すべて鉄に、続いて現れる鋼鉄に機械的に置き換えよう、と発想するなら、たちまちにしてこれは、高層化発想につながります。すべて木造、すべて横方向でなくてはならない、そう考えていた従来型の日本常識が、一挙に倒立して、すべて鉄でなくては、すべて縦方向に成長しなくてはと、真反対が出る可能性があります。テンション民族のことですから。
そして幕府の中枢たる江戸城が、真っ先に鋼鉄城となり、つづいてぐるりも付け足されて肥満化し、するとさらに上に伸び、とこういったことが繰り返されて、江戸城は、地上に降りた小惑星にも似た、黒がねのバベルの塔になります。
そして周囲には、高層の軍事施設を衛星のようにしたがえます。民間の施設もそれぞれ高層化して、その間を埋めていきます。
こうして大江戸八百八町シティと、月島のアベ空挺港周辺エリアは、みるみる独自的で、エキゾチックな景観に変貌していきます。
鋼鉄を、日本人が世界に先駆けて開発・発明したとしてもいい。鋼鉄はしなりますから、マンハッタン高層ビル群も、この鋼鉄の出現が可能にしたわけです。18世紀までの欧州のどの都市も、背骨は錬鉄です。
この空想では、日本家屋が、その特徴を留め、かつ強調したりもしながら、世界に先駆けて鋼鉄高層化するわけです。戦争をしなかったのですから、そして欧州戦争の軍需工場を一手に引き受けたのですから、充分な金もある。

サムライ身分は存続し、そのまま国防軍隊にスライドします。何しろ明治維新がなかったのですから。  徳川家のリーダーシップは続き、長老化、シンボル化しながらも、将軍職は持続しています。そしてアメリカとの友情から、大統領制が導入される。
アメリカは、イギリスと不仲になり、むしろ日本との同盟関係がより強固となって、このために日本は、アメリカとの友情から、軍事力を強めるほかはなくなります。しかし日本には武士階級が存続しているのですから、こうしたことにはまったく問題はなく、むしろ望むところとなります。

サムライたちは、その特権的身分の証しとして、馬に乗ることが許されます。サムライというのは、馬への執着心がきわめて強い人種でした。
しかし馬は生き物で、排出物という公害の問題や、舗装路の出現という足場の問題、また生物であるゆえの弱体性も問題になって、彼らの愛馬は次第に機械化、ロボット化されていきます。これが日本のロボット産業のさきがけとなり、サムライの馬への執着心が、日本のロボット技術を世界最先端のものにします。

サムライたちのちょんまげファッションは、かたちを微妙に変え、小型化しながらも、そのまま持続します。
腰の刀も、やや細身になりながらも、彼らの男らしさのシンボルとして、そのまま続きます。
パトロール中、遭遇する相手によっては、これを抜くこともあり得る。
男たちの着物も、ニッカーポッター式の機能美等は獲得しつつも、新素材を取り込んで、羽織、丹前ふうの上着として、そのまま発展します。
そうしてそのまま21世紀に入り、彼らはこのいでたちで戦闘機に乗ったり、ロボット馬に乗ったり、スポーツカーに乗ったり、ロケットに乗ったりもする。
女性たちの高島田スタイルや髪型も、アトラクティヴだとして、おしゃれ女性たちの間ではそのまま続き、発展します。
和服も非常にゴージャスですから、おしゃれ女性には、当然パーティ着、外出着として重宝され、存続します。 これは世界中の女性がこぞって模倣します。
これら、人と都市との総合的な眺めが、世界に影響を与えた「エド・トレンド」の、デザイン・メソッドとなるわけです。

とこう考えていくと、これは映画「スターウォーズ」の中に見えるファッションに、期せずして近づいていきますね。不思議なことです。
アプローチは違いますが、ハリウッドの彼らもこうしたことを考えていて、するとあの物語の中枢には、実は日本文化が非常に骨太のかたちで介在したのかもしれません。ルーク役の彼も、ヨコハマ育ちですしね。とすればこういうストーリーは、アメリカ人に受け入れられる余地は充分にあります。

いずれにしても、士郎さんの参加となると、こちらも本腰を入れなくてはなりません。ちょっと構想を修正する必要もあるかな、と感じています。
以前は、もうさっさと月の基地に行こうかと思っていましたが、江戸鋼鉄城下、エドシティでの若者たちの活劇ドラマや恋愛を、腰をすえ、しばらくは展開するのがいいのかなと、そう考えはじめています。
またメイルします。士郎正宗さんに、よろしくお伝えください。そして大変喜んでいたと、そうお伝えいただければと思います。
島田荘司。

述べたような、こうした見え方の物語は、実は裏があるのだが、読者はあれこれ考えず、ただファンタジーとして楽しんでいただけたらそれでよい。またこちらも、ローラーコースター的な、読者翻弄的な展開を構想しなくてはならない。
しかしいずれにしても、士郎さんが参加してくれるとなれば、さらに練り直し、あまりむずかしくならないように気をつけながらも、より高度に、しかもより合理的なかたちに内部世界を磨いていかなくてはならないだろう。
 
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