島田荘司 on line
on line top Weekly Shimada Soji top
編集室の窓から
島田荘司のデジカメ日記
第294回
島田荘司のデジカメ日記
島田荘司のデジカメ日記
島田荘司のデジカメ日記
島田荘司のデジカメ日記
島田荘司のデジカメ日記
島田荘司のデジカメ日記
島田荘司のデジカメ日記
島田荘司のデジカメ日記
島田荘司のデジカメ日記
11−3(金)、日米書店事情
今回は、日米の書店事情の相違について、ちょっと書いてみる。これがあまりにも違っていると、常々思うからだ。
アメリカの書店には、スターバックスとか、もっとマイナーなカフェが付属していることが割りとある。店内と同フロアにあり、レジを通った外にあるわけではないから、店内の本を書棚から引き抜き、この喫茶店内に持ち込んで、コーヒーを飲みながら長々と読んで、読み終わったらまた店内の棚に戻し、買わずにさっさと帰ってもよい。
道徳日本人の感覚からは、驚天動地のまったく信じがたい暴挙だが、アメリカではこれがまったくの日常感覚で、客たちにいっさいのやましさがない。「ハリーポッター」を持ち込んで3時間読み、また返してもよい。書店員も、喫茶店の人間も、誰も何も言わない。まるで図書館である。こちらの学生に、もしも書店員が喫茶店のテーブルまで来て、そんなことはやめてくれと文句を言ったらどうするかと尋ねると、逆にびっくりしてして、そんなこと言うわけがないから解らない、と言い、もしも言ったらと重ねて問うと、汚さないから大丈夫だよと応えるか、買おうかどうしょうか迷ってるんだと言うか、後で返しておくよ、とでも言うと言う。
東京ではそんなことは許されない、アメリカでもいずれ許されなくなるかも、と言うと、そんなことには絶対にならない。もしもそうなったら、書店員が一番大変だよと言う。自分の本か店内の本か、書店員には解らない。いちいち尋ねてチェックするのは大変だし、解るようにしたいなら、喫茶店の位置を、レジの外側に動かさなくちゃならない。
このあたりの道徳観は、日本とはまるで違う。いつだったか東京の飲食店で、好きな端のテーブルが開いたので、注文品が来る前だったからと、勝手に横に移ったら、ウェイターにあっと悲鳴を上げられ、続いて激しくため息をつかれ、わざとらしく念入りに鼻先のテーブルに磨きをかけられ、まるで痴漢か放火でも見つけたような、心底あきれたふうの軽蔑の視線をさんざん浴びた。
また数人でお汁粉屋に行き、店長らしい女性の思惑に抵抗して、好きなテーブルについたら(決して5人がけを1人で占領したわけではない)、彼女が激しい怒りと悔しさで、ひそかに涙を流しているのを見た。これが異常事態かと思うと、日本では割合この手のことがよくある。過去20年くらいを振り返れば、いくらでも思い出せるであろう。学生時代、渋谷の喫茶店で粘っていたら、マスターが真っ赤な顔で、ぶるぶる体を震わせながらやってきて、テーブルの上の伝票を取り上げて読み、テーブルにばんと、店内に轟けとばかりに平手で叩きつけたこともある。
これは糾弾しているわけではない。しかしこんなことを書けば、日本の土地代の高さがいったいどれほどのものか、とまた怒りの手紙をもらうであろうか。これもだいぶ前になるが、近所の集会猫に友人が餌をやったら、ガラガラと近くのベランダが開き、女性に「やめてください! 持ってかえってください!」と泣いて叫ばれたことがある。そのことをどこかに、決して糾弾口調にならないように明るく書いたら、猫の尿がどれほど大変か知らないのか、と怒りの手紙をもらった。まあこれは解らないでもないが、ともかく客として行ったレストランでのことは、アメリカではちょっと考えられないので、やはり日本も、ティップ制を導入すべきかなと考えることはある。これでは確かに人も死ぬし、豪憲君殺害の正義感覚にも洞察がつく。ちょっと日常が辛すぎる。
ぼくはアメリカの書店の状況を、礼賛一方で書いているのではない。まずはアメリカ人のこんな様子は、日本流の道徳観から言えば、物や書物を大事にしないルーズさから来ているとも言える。他人が喫茶店で何度も読んだ本だと、よれよれになってはいないのか、そんな本を買う気になるのかと問うと、よほどひどければ別だけれど、割と平気で買うという。アメリカの学生の、本を大事にしなさ加減は異常で、友人宅に行って、何々の本を見せてと頼むと、出てきた本に、表紙がないことなどはしょっちゅうで、さらには表紙にくっついた前半部分までがない。それを言うと、「あっ、こっちにあった!」などといって探してはくるが、それがまた別の本の片割れだったりもする。そもそも本に対する敬意というものがない。
これについて以前に東京創元社の社長と話したら、アメリカの本は、破棄する時のことを考え、壊しやすいように作ってあるのだという。確かにアメリカ人に日本産の自著をあげようとして、表紙をめくってコート紙の扉ページにサインしようとすると、そこは取れてなくなるから、こっちの普通紙のページにしてくれと言われる。いや日本の本は、そんなことは起きないのだと説明する。
けれどトウキョウの書店を知るアメリカ人は、日本の書店は緊張的で、楽しくないとは言う。いつもしんとしていて、声を出してもいけないふうだ。アメリカの書店はわいわい騒ぎながら入れるし、高校時代、SAT(全国統一テスト)の試験のための調べものをしに友人グループで本屋に行き、書棚の間の通路に車座になってすわって何時間もすごした。日本の書店はたいてい狭いところが多くて、フロアが広くても棚の間の通路は狭いから、体を横にして、必死で歩く感じだと言う。
確かにアメリカの書店は、書棚の間隔が広くとってあり、カーペットが敷いてあったりするから、学生が胡坐をかいてすわったりもしやすい。まあ日本人の道徳感性では、学生が通路でよくそんなことをしているとなれば、カーペットなどはさっさと取り払うであろうし、箒を持って床掃除に行き、せいぜいはたきもかけるであろう。これもまた、日本人には当然至極の正義だ。
何しろ井の頭公園から、ゴミ箱がひとつ残らず消えた国である。理由は、近所の人たちが、家庭ごみを持ってきて捨てるからだと言う。これにはかなり驚いた。ゴミ箱のない公園はまず世界中に日本だけで、ゴミは結局同じ処理場に行くとアメリカ人は考える。むろんこの場合は、爆弾を仕掛けられる危険があるからだとか、かつて死体が捨てられたからだというあたりを理由に使いたいのであろうが、これはもう記憶が遠のいたし、そうならアメリカのゴミ箱は千倍危険である。これは実のところそういった理屈ではなく、家庭ごみを出勤途上に公園のゴミ箱に捨てるという姑息さ、不行儀さが猛烈に気になるという、日本人の体質から来るものであろう。これも別に攻撃ではない。それで満々たる自信を持っていいかどうかは議論だが、お国柄で仕方のないことである。
アメリカ人は、書店は楽しい場所だと言う。ギフトカードのコーナーがあったり、マグカップを売っていたり、プレゼント品のコーナーがあったり、コンピューターが置いてあったりして、自由に書名のサーチができる。図書館と同じかと問うと、それはないと言う。図書館ではセルラーフォンの使用は禁止だし、アメリカでも私語は駄目、ずつと静かにしていなくてはならない。ただパソコンの数は図書館の方が多いから、その意味ではこちらの方が楽しい要素もある。
アメリカ、書店の数が減りつつあるのではと問うと、そうも言えないのでは、と言う。DVD屋やCD屋が増えているから、それらにくっついて、ちょっとした本のコーナーもできる。書籍専門店とかまえなければ、逆に増えているともいえると言う。
ただアメリカの若者は意識していないようだが、アメリカには週刊誌の漫画、レンアイ志向のいわゆる少女漫画雑誌の類は、ほとんどないふうだ。アメコミなどがあるのだろうが、これは日本ほど、どこででも見かけるというような、オーヴァーグラウンドなものではない。
一方日本は漫画週刊誌、あるなんてものではなくて、これが絢爛にして圧倒的な文化を花開かせている。少年向けコミックというものも、もともとはスーパーマン、スパイダーマン、バットマン、最近ではXメンにファンタスティックフォーなど、アメリカで始まったものだろうと思うが、こちらでは今、逆にこれらが下火になっているらしい。印刷物のこれは、みんな大して読まなくなった。何故なら、待っていればすぐに映画になるからだ。そしてこれらの映像の出来は文句なく素晴らしいのだから、確かに映画で見る方がいいであろう。
また少女漫画がないのだから、メジャームーヴィーが堂々と、少女漫画ふうレンアイ映画も作る。これがまた、女優のうまさ、魅力もあって、よいできのものが多い。「ローマの休日」だってこの方向のものであった。もっともあの時代は、少女コミックふうを映画も作ったのではなくて、ああした映画を、日本の少女漫画がこぞって真似したのであろうが。

バーバンクの書店に行ってみた。書店の店内は、なかなか上品に出来ている。ここにも同じフロアにスターバックスがあり、その手前はギフトカードや、プレゼント品のコーナーになっている。しかしざっと見廻すかぎり、スターバックスのテーブルに売り物の本を持ち込んで積み、タダの読書を決め込んでいる客はないようだ。禁止禁止と言わなければ、案外みな、そんなことはしないものだ。
日本の漫画は、こちらにずいぶん進出している。コミック・コーナーの一角を、日本産のMANGAが占めている。こちらはハリウッドが強力で、ヴィジュアル大好きのアメリカ人なのに、コミック印刷物が手薄になっているゆえなのだろうか。
一方日本は、日本映画がいささか弱体のせいもあって、コミックが大いに勢力をふるっている。たまたま生じたこの大きな段差は、やはりビジネス・チャンスだろう。こちらに進出したいなら、まずは漫画だ。
 
デジカメ日記 バックナンバー

Copyright 2000 Hara Shobo All Rights Reserved