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編集室の窓から
島田荘司のデジカメ日記
第293回
島田荘司のデジカメ日記
11−1(水)、士郎さんとの会見報告
LAに戻っていたら、講談社BOX、太田さんより、士郎正宗さんとの会見の報告メイルが入る。

島田荘司様
出張から戻ってまいりました。士郎さんとの初会合、首尾よく行うことができたことをご報告申し上げます。
士郎さんはすでに島田さんの作品を幾つもよく読まれており、(士郎さんはとてもサムライ然とした方でした)また、島田さんが書いてくださった二つのイメージ・スケッチも会合のその場ですぐに読んでくださいました。そして、
「『ハロウゥイン・ダンサー』はともかく、『Classical Fantasy Within』のようなifの歴史ファンタジー世界は、絵描きにとっては本当にむずかしい題材で、正解のない正解を描かなければならなりません。資料を調べないと駄目ですし、資料を調べすぎても駄目でしょう。これは、やるとなると相当な本気モードでかからなければなりませんね」
と仰っていました。
士郎さんは、来年にひとつ大きな仕事を抱えていらして、その仕事のスケジュールの調整が可能かどうか今すぐにはわからないため(定かではないのですが、どうやらアニメーションのお仕事のようです)、
「島田先生にお返事ができるまで一ヶ月程度お時間をください、調整できるよう頑張ってみます」
とのことでした。
引き受ける場合は、来年の夏〜初秋くらいまでに、全6巻中、1巻〜2巻程度の原稿を読ませていただければ助かります、とのことでした。ファンタジーの世界観のイメージを早めに掴んでおくことで、絵にも広がりが出てくるとのことでした。
また、会合に同行していただいたまんが雑誌、『ヤングマガジン』の士郎さん担当編集者は、 「大変好感触でしたよ。士郎さんご自身は、かなりやる気になっていますね。あとは本当に、ただスケジュールの問題だけではないでしょうか」
と言っていました。
ご報告は取り急ぎ、以上でございます。このまま無事、島田さんと士郎さんのコンビで、島田さんと士郎さんの「本気」がぶつかり合う作品を発表することができれば、それはどんなにすごいことでしょう! 一ヶ月間、士郎さんに対してフォローを怠らないようにしたいと思います。
それでは、いったん失礼いたします。LAも秋が深まっている毎日だと思います。お風邪などひかれませんよう、お体にはくれぐれもご自愛ください。
講談社 O田K史

「ハロゥウイン・ダンサー」とか、「Classical Fantasy Within」というのは、士郎さんに見せるため、急いでぼくが書いた梗概、まあ作品世界のラフスケッチのようなものである。
メイルを一読、かなり驚いた。むろんぼくは士郎さんと一緒に仕事ができることを願ってはいたし、自分が描いて提出した活字世界を追って、士郎さんの具体的なイメージが飛来してくるのを待つ時のことを空想すれば、気持ちは大いに高鳴る。昔子供の頃、瀬川昌男さんのSFを読んだり、ラジオ放送劇を聴いていた頃を思い出して、あの感じだなと思い、さぞ楽しいだろうとも思う。
けれど、とんでもなく忙しい人だろうと思うから、まったく期待はしていなかった。士郎さんに挿画を引き受けてもらうというのは、ぼくにとっては英訳された自作が、ランダムハウス社によって北米全域で発売されるのを期待するというのと同程度の、楽しいが、しかし実現はなかなか困難な空想であった。
しかし士郎さんの感触はよかったという。おまけに彼は、拙作を何冊か読んでくださっているという。これは望外のことで、大変嬉しかった。それですぐに返事を書いた。

太田さん、
嬉しいメイルいただきました。ありがとうございました。
士郎さんの方、予想外の反応で、驚いています。さすがに太田さん、民主党、小沢さんばりの豪腕であると思います。また大変運がありますね。昇り調子のこれを、しばらくは手放さないでいただきたいものと願います。
なんとなく可能性が出てきましたね。むろん期待しすぎてはいけませんが。
もしも士郎さんが協力してくださるなら、さまざまな方向で、大きな可能性が出てくるように思います。北米進出だって、まったくの夢ではなくなると思います。あとは私にかかってくるので、必ず、すべてをうまく転がせるように考え、頑張りたいと思います。
ただし、多少可能性が出たというだけで、士郎さん、来年もしもアニメなどということになれば、時間は絶望的に乏しいとも思います。時間的、スケジュール的には、絶望的にむずかしいといもいえます。そうなら、士郎さんにあまり依存しないようなかたちを、こちらも考えておく必要があります。
若干の誤解もあるように思いますので、以下で急ぎ、これを正しておきたいと考えます。今後も士郎さんとの雑談の機会があるようなら、軽くこんなことも伝えておいていただけたら、と思っています。

◆「『ハロウゥイン・ダンサー』はともかく、『Classical Fantasy Within』のようなifの歴史ファンタジー世界は、絵描きにとっては本当に難しい題材で、正解のない正解を描かなければならなりません。資料を調べないと駄目ですし、資料を調べすぎても駄目でしょう。これは、やるとなると相当な本気モードでかからなければなりませんね」と仰っていました。

これは、そういうことではないんです。当然お時間ないであろうとはこちらも予想していました。そこで私としては、忙しい士郎さんが、すぐに描けるようなかたちを想定、設計したつもりなんです。
お渡ししたイメージは、リアルなものと見せてはいますが、実はそういうことではないんですね。どうもっていくか、背後世界の構築は、さまざまな選択肢の中でまだ思案中ですが、あれは完全な幻想世界であって、現実ではないわけです。だからあれを読んだ士郎さんが、自分の脳裏、あるいは過去に展開したご自身の作品中で、すでに構築したメカとか未来都市の脳裏風景を、こちらの思惑はほとんど無視して、勝手に描き込んでいただけたならそれでいいんですね。士郎さんの脳裏にあるヴィジュアルが、そのまま作中の「何ものか」の脳裏世界として現れるわけで、こちらはそのように想定、計算しています。むしろこちらとの異質感、それとも士郎世界流の独自性が欲しいわけで、現実的とも、あるいはこちらの脳裏とも、ある意味で違っていれば違っているほどいいんです。だからどのような世界、風景、メカ、クルマが現れようとも、某アニメの女性作者さんみたいに、「これってちが〜う」と私が言うことはあり得ないんですね。
だから、調べていただく必要はいっさいないんですね。むしろそうしないでいただいて、こっちが書いたもの読んだら、すぐ士郎さんの手持ちの事物世界を、どんと無作為にぶつけてくだされば、それがこっちの狙いなんです。日本歴史なんて、まったく無視していただいていっこうかまわないし、その方がいいんです。士郎さんが描きやすいように、こちらは考えたつもりでいます。
もしも私が先で「ちょっと違う」と言うとすれば、時間がないゆえに絵が簡単になりすぎだ場合で、私が好きな士郎さんの、あの「ぎゅっと詰まった塊り感」が淡くなってしまうとか、淡彩風景スケッチふうとか、鉛筆の下書きみたいになってしまうことですね。「マトリックス」に影響を与えた、あの高品位でビリーヴァブルなメカ感覚、緻密でへヴィメタルな、機械世界が欲しいんです。
だから、描きはじめる手前の気分は、ごくお気楽でいいんです。ただし、ペンを執ったなら、そのあとの描き込みだけは、かなりの本気になっていただきたいんですね。そういうことなんです。

◆引き受ける場合は、来年の夏〜初秋くらいまでに、全6巻中、1巻〜2巻程度の原稿を読ませていただければ助かります、とのことでした。ファンタジーの世界観のイメージを早めに掴んでおくことで、絵にも広がりが出てくるとのことでした。

これは、むろんそうします。士郎さんの可能性あるならば特に、その頃には作品の大半が仕上がっているようにしたいと思っています。まあありがたいこととしては、士郎さんと組む世界は、12冊中の6冊のみだということですね。これなら士郎さんも、それほど時間が大変ではないかもしれません。12冊すべてということなら、士郎さんはとても無理だろうと思います。
でも、もしもやってくださるなら、1冊にできるだけたくさんの絵を描いていただきたいですけれどもね。これは願います。本を、できるだけ漫画に近づけるのがいいかなと、私は思っているんです。
それにしても、士郎さんが拙作を読んでくださっていたとは光栄ですし、嬉しいことですね。この事実が、いくらかの可能性を開いてくれたのかな、とも思っています。
読んでいただいたのは「ネジ式ザゼツキー」あたりでしょうか。この作なら、士郎さん世界ともそう遠くないし、今回のものにもコンセプトが近いです。
ともあれ、そういうことならば拙作、いろいろお送りしたいとも思うのですけれどもね。出たばかりの講談社の「ネジ式」の文庫など、送っておいていただいたらどうかなと思うし、あるいは「帝都衛星軌道」なども。
またこちらも、近作の「溺れる人魚」とか、「犬坊里美の冒険」など、お送りしようかと考えますが、いかがでしょうね。住所お教えいただけたなら、各出版社に頼んでみます。

まあいずれにしてもありがとうございました。期待しすぎてはいけませんが、可能性がわずかでも見えたということ、大いに喜んでいます。
また上に書いたようなことなので、新作を描かれるというほどには、お時間も、頭も、取らせないと思うんです。また私も、せいぜいそのように持っていきます。
どうしてもだったら、こちらがラフスケッチ描いてお渡しするくらいまでしてもいいのですけれどもね。そうしたら、士郎さんも時間も節約できるでしょうし。
でもできたら、そうはしたくないですね。見えている視界の違いと、そのぶつかり合いを楽しみたいものです。こちらの予想を超えるものが毎度出てきて、毎回驚けたら最高なんですけれども。
ではそんなところで。
                   島田荘司。

最良のオプションに、望みが出てきた。しばらくは、多少期待して待つことにしょうとか思う。
 
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