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編集室の窓から
島田荘司のデジカメ日記
第281回
島田荘司のデジカメ日記
島田荘司のデジカメ日記
9−21(木)、女性自身、連載完了打ち上げ
午後6時すぎ、講談社BOXまでわざわざA井さんが迎えにきてくれたので、一緒にO田氏のオフィスを出て、光文社に廻る。
前日の20日に吉祥寺ルノアールで、百田まどかさんが描いてくださった表紙用のカラーイラスト5点の中から1点を選んでいたのだが、そうしたことに関して、多少ミーティングの続きをする。
同じルノアールで4日になした、表紙もまどかさんの絵で行くというこちらの提案だが、編集部でも別にこれといった代替案は出なかったので、こちらの提案通り、まどかさんに依頼する展開になっていた。それで5点ばかり百田さんが描いてくださり、前日にこの中から1点をぼくが選んでいたのだ。
5点の絵は、どれも出来がよく、それぞれに捨てがたい味があったが、最も安定感のあるオーソドックスなものを、この時は選ぶことにした。
編集部の意見の大勢は、どうやら別の絵だったらしかったが、表紙にはこれしかないという直感が、自分には来たからだ。A井氏は、では残りの絵の中から1点を使い、書店用POPを作るのだと張り切っていた。
打ち合わせを終え、光文社の前でタクシーを拾い、銀座のTopolinaというイタリアンのお店に向かう。この夜は、「犬坊里美の冒険」の連載が完了、作品も無事完成したので、お世話になったみなさんで会食をし、打ち上げをしようという計画だったのだ。
博品館そばのそのお店に着いたのは午後7時すぎなったが、百田まどかさん、週刊女性自身の連載担当で副編、М岡氏の2人はもう来ていて、われわれを待っていてくれていた。百田さんはこの日はシックな黒い装いで、大変に決まっていた。
挨拶をして、食事に入る。まどかさんの方から、表紙はどれになりましたかと問われるので、A井さんは持参していた5点のカラーコピーを白いテーブルの上に並べ、ぼくが選んだ1点をお見せした。百田さんはふうんというふうの顔をされていた。
この絵、特に好きなんですとぼくが言うと、あ、では原画、さしあげます、と百田さんは言ってくださった。するとA井氏が、では私めが額を都合してまいります、などと言ってくれた。そうなら、アメリカの家の壁にかけますよ、とぼくは言った。
М岡氏は、おかげさまで、好評裏に終了ができました、などとお世辞を言ってくれていた。お店のウェイターの若い男性で、島田さんの大ファンなんですと言ってくださる人がいて、大変嬉しかった。たまたまA井さんが光文社の本を持参してくれていたので、1冊サインしてさしあげた。

食事を終えたら店を出て、ぶらぶらと夜の銀座通りを歩き、禅というクラブに行って、もう一度ビールで乾杯する。
阿部寛に似ていると言われたA井さんが気をよくし、怪しい視線で女の子たちに迫っては、キャーと言わせて喜んでいた。百田さんも、なかなか楽しんでいるように見えた。
周囲に若いギャルが増え、A井さん、またしても酒が進み、酔ったまなざしを今度はこちらに向け、
「センセ、このたびは本当にありがとうございました。今後もこの調子で、全力で頑張ってくださいませ、あと13年は!」
と数字限定で言ったから、М岡氏が聞きとがめ、
「なんだよA井、その13年というのは。妙に細かいその区切り方は」
と追及した。
「あ、まあそれはいろいろ……」
とA井さん、言葉を濁していたが、同業のМ岡氏はたちまち真相に思い至り、鋭く指摘をするのだった。
「あ、そうか、おまえの退職するまでの時間ね!」
A井氏、いやバレたか、と言っていたが、まったく自分の都合しか考えないA井らしいという話になった。そこでA井氏開き直り、
「センセ、あと13年、私が光文社にいるうちは、よろしくお願いいたします!」
とエゴ丸出しで言うのだった。さらに続けて、
「この後は里美ちゃん、検察修習ですよね、その後は裁判官、刑裁修習……」
刑裁修習というのは、刑事裁判の裁判官の実習のことである。
「やはり、ですね、鉄は熱いうちに打てと、こう申します。やはり間をおかずですね、ぼんぼーんと検察修習、刑裁修習とですね、テンポよく……」
と言うので、
「うーん、ま、そうしたいのはやまやまですが、2008年にかけてはものすごい忙しさで。それにねー、尾登クンのこととかあるじゃない。石岡センセとさ、ちょっと人間関係、えらいことになっちゃってさ。もう、どうなるんだろねー、あれ考えると頭痛くて」
と言ったら、
「センセイ、それは乗り越えなくてはなりません」
ときっぱりナマイキを言うのであった。
このようにして夜も更け、ではそろそろお開きの時間です、とA井さんは言い、「それではセンセ、締めの一言を」と彼が乞うので、少人数でもあったことだし、ソファから立たず、以下のような挨拶をした。
「今夜はどうも、楽しい夜でした。半年にわたる連載でしたが……」
と言いかけると、A井氏М岡氏、すかさず口を揃え、こう訂正する。
「センセ、1年です、1年!」
「えっ? 1年?!」
とぼくはびっくりした。すぐに終わったようなつもりでいたが、1年間も長々と連載していたのか。そうと知って、愕然とする。なにやらこの頃、時間が経つのがえらく早い。アメリカの学者が唱えた、絶対時間は縮んでいるという学説があるそうだが、これは本当にそうだと思う。
「そうか、1年かぁ、あっという間だったなぁ。しかしそれは、充実した時間だったからで。百田さん、ありがとうございました。連載中、掲載誌がアメリカに送られてくるのですが、開いて今回はどんなイラストかなと、里美ちゃんの絵と出遭うのが毎週の楽しみでした」
すると百田さんも会釈してくれた。
「A井さんによれば、次は検察と裁判官だそうですから、これに懲りず、これからもA井さんと私におつき合いください」
そう言うと、彼女はあきらめたように、
「はい、わかりました」
と言った。
これで終えようとしたら、もっと喋れと言うので、仕方なく常日頃A井さんにこうむっているあれこれを、何の作為も粉飾もなく語ったら、ギャルたちが息を詰まらせて笑ってしまい、
「ツボに入っちゃったー」とか、「あー、もう駄目」などと言っていた。
というような夜であった。明日からまた頑張らねばならない。あと13年間は。
 
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