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編集室の窓から
島田荘司のデジカメ日記
第262回
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5−3(火)、日月譚で、香月Pと御手洗さん映画を語る会
東映、香月プロデューサーに会い、御手洗さん映画について直接質したい、という声がSSKの女性たちの間で大きくなってきたらしい。そこで香月さんに質してみたら、あきらかに不安を感じたふうもあったが、一瞬の躊躇ののち、「ま、いいですよ」と雄々しく言ってくれたので、先日大辞典ミーティングに集まってくれた女性たちのうちの東京組に、声をかけてもらった。メンバーは、おなじみの石塚桜子さん、えいこさん、chatoさん、山田さん、櫻井まやさんといった面々、計5人になった。あまり大人数にはならない方が、話もしやすいであろうと考えた。
そして同じく大事典ミーティング参加の男性陣にも声をかけたら、岩波先生、宮田さん、A井N則さん、007号に、この時はたまたま時間があったとかで、現在多忙をきわめている山下弁護士も、駈けつけ参加してくださった。山下先生は、今世間を騒がせている強度偽装事件の、ある中心的な人物(姉歯さんではない)の弁護人を引き受けたそうで、だから日々超多忙のはずだ。
いきなり全員となっても話がしにくいかと思い、まずは女性たちだけで香月さんを囲み、男性たちには1時間遅れて日月譚に来てもらうように段取りをした。最初は女性たちだけの方が、要望も出しやすかろうと考えた。
著名な映画プロデューサーを囲む会ということで、女性たちはみな、なかなかおしゃれをして集まってくれた。櫻井まやさんなどは、黒ずくめのいでたちに、貴婦人ふうのつば広帽子までかぶっていたので、西荻改札口前の集合場所に行ってみると、集団は異彩を放っていた。黒っぽい印象の人たちが多く、唯一色彩をまとっていたのはchatoさんで、さりげなく首に巻いたスカーフが決まっている。実は香月さん、西荻で電車を降りて改札を抜けたらしく、そのおりにこの集団を目に留め、これから会うのがあの人たちだったらいいな、と思ったそうである。7人でテーブルを囲んだ際、彼が開口一番にそのように言った。まんざらお世辞でもなさそうで、日頃女優を見馴れている映画プロデューサーにそう言わせたのであるから、わがSSK女性集団も大したものである。
まずは自己紹介となる。chatoさんが、自分のハンドルネームの由来について述べた。自分はきかん気が強い子供であったから、ある日母親が、「あんたはドーモーな茶色の虎だよ!」と言った。それでHNをchatoにしたのだそうである。山田さんはというと奈良出身で、本名をミカドといい、みなにさんざん変わった名前だと言われ続けて育ったから、平凡な名前に強い憧れがあった。ゆえにヤマダとつけたのだそうだ。皇室の血筋を引いているのですかと問われ、「あ、いえいえいえ」、と言っていた。
メニューのノートをめくっていたら、chatoさんが、「あっ、焼酎の字が見えた!」と言ったので、香月さんがまた不安な目つきになったが、ここではみなコーヒーを飲んでいたから、実に淑女的な会合であった。一瞬不穏な空気が流れたのは、「大楠がもしハリボテ・バレバレだったら、行ってぶっ壊してやるー!」とchatoさんが言った時くらいであった。これにはみな、たしなめるでもなく、てんでに無言で頷いていた。つまりは、デキが悪ければみんなで行って壊す、ということなのであろう。
御手洗さん役者の名をやはり真っ先に問いただされ、現在ほぼ内諾を得ている役者名を香月さんが口にすると、ヤマダさんが「おお……」とひと言言った。しかし、続いて反論飛び交うといったことでもなく、みな実におとなであり、頷きながら肯定的にプロデューサーの話を聞いた。
やがて三々五々男性陣が到着し、彼らがなかなか実のある発言をした。冒険小説好きの宮田さんが、たとえば007映画のように、若い娘が暴漢に暴行されそうになっている時、たまたま通りかかった御手洗さんがこれを助ける、それも腕力でではなく、機転を使って意表を衝いた助け方をする、そんなエピソードを冒頭にちょいと挟んでから本編が始まる、なんてのはいいな、と希望を言った。香月さんも、うんそれはいいなと同意していた。
岩波先生が、「暗闇坂」は大作になるのか小編なのか、と訊いた。これはその両者の中間といったところですね、と香月さんは応えた。「暗闇坂」は、年間を通し、季節を追うような話ではないし、「男たちの大和」のような行き方でもないし、と言った。すると岩波先生が、では「チゴイネルワイゼン」のような、渋い行き方に徹してはどうか、そして傑作を目指しては、というようなことを言った。これにも香月氏は頷いていた。
レオナの話になった時、「御手洗さんは、レオナの心の暗がりを、正しく理解すると思います」と桜子さんが言った。これはその通りだと思うので、ぼくの方も、この2人に関して持っている考えを述べた。これもそうだが、この時に出た話や、役者名などはあまり公にはしない方がよさそうである。
瑛子さんやまやさんも、冷静で、的確な意見を口にしていた。いずれにしても、映画は原作とは別物なので、映画は映画として楽しみたい、期待をしている、というようなことになった。
「SAW1」、「2」の話にちょっとなったので、ぼくが少しだけ自分の考えを述べた。これは双方ともに、「本格」的構造体をしっかりと内包した、優れた脚本であると感じている。日本流に言う「本格」的の構成体だけでも勝負ができる、優れたアイデアを背後に持つ昨品である。特に「2」など、個人的な感想だが、癌におかされた老犯人が、「こちらの条件はただひとつだ、じっくりすわって話をしよう。そうすればあんたは息子に会える、保証しょう」と暴力刑事に言う。同じライターだからよく解るが、これを書いた時、このライターは非常な達成感に、思わず快哉を叫びたくなったろうと思う。
ところが、この渋くてうまい、圧倒的伏線のセリフにしても、なんだかおどろおどろしい血糊に埋没してしまい、目立たない。このセリフがいかにうまいか、案外みな気づかないのではないか。
もうヒッチコックの頃のように、ピュア・ミステリー的構造体で勝負ができる時代ではないのであろう。そうしたセンスのよさ、クレヴァーさで勝負をして、たとえ高い評価を得ても、興行の数字が並と予想できるのであろう。こちらで聞いた話だが、ハリウッド産の映画も、今や黒字になっているものは数えるほどしかないのだという。大半が、実は赤字だ。だから製作の現場は、もうなり振りをかまっていられる時代ではないのであろう。だから、ホラーやスプラッタのフリークたちも併せて呼び込み、数字を底上げしなくてはならない、それがああした、悪趣味なまでのどろどろ血まみれの、残虐趣向なのであろう。
観客たちはみな、ああした血まみれの残虐趣向にも、今や感性が麻痺してしまって、相当なことをやっても強い不快は感じなくなっている。ぼくがピュア・ミステリーとしての論理性がよく貫かれ、ゆえに佳作と評価する「セヴン」、「ボーンコレクター」なども、不必要なまでに血のデコレーションをまとっているが、これも背後にはおそらく、そうしたハリウッドの事情があるのであろう、といったような話もした。
それからみなで近くの居酒屋に移動し、ビールで乾杯して、雑談の続きをした。焼酎がなかったせいでもあるまいが、アルコールが入っても女性たちはあまり過激になることもなく、冷静な発言に終始して、なかなかよい会であった。また都度都度、こうした会を持つのもよいのであろう。
 
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