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編集室の窓から
島田荘司のデジカメ日記
第256回
島田荘司のデジカメ日記
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島田荘司のデジカメ日記
1−8(日)、新宿の原書房で、島田荘司大辞典ミーティング
もう何年か前になるが、原書房、第三編集部のT橋部長が、I石毛編集者に担当を交代した直後、「島田荘司大辞典」というものを作ろうと提案してくれたことがある。島田荘司の全著作の内から、人名、地名、意味深い事物、名言、珍言、印象的な台詞から迷台詞にいたるまでを拾い出し、当該作品に愛情があって理解の深い読者から募集した楽しい、ものによっては面白おかしい説明文を付けよう、というものだったと思う。この時T橋氏は、「島田荘司の面白い本」という、まことに単刀直入なタイトルも視野に入れていた。この提案の日の写真も残っているから、ここに公開しようか。
こうした丹念な語彙の洗い出しで、作家島田荘司の感性の傾向とか、隠されていた思想性、作家性なども見えてくるのではないか。そうなら、後世のミステリー研究家にとっても、これはそれなりに重宝な記録書となるかもしれない、そういった趣旨の提案であったと思う。面白い発案とは思ったものの、こちらは少々恐れ多い気がして腰が引けたし、創作で忙しくもあり、言い出したT橋氏自身、自分の仕事が忙しくなって、話はいつの間にかたち消えになった。
ところがSSK、「奇想の源流」サイトのBBSで、小島正樹氏の発案で始まった「島田作品しりとりゲーム」が2年も続くヒットネタとなり、いつのまにか1000個もの語彙リストが完成していて、管理人や常連メンバーが、「島田大辞典」の作成を目指す、と公言するにいたって、思わぬ方向からこの企画案が再浮上してきた。

しかしこの企画、考えてみれば日本の本格シーンやミステリー史にとって、割合意味があるような気もしてきた。上記のようなお遊びふうのことだけでは、例によった非難の砲火が集中することは間違いないので、拙著中、まがりなりにもミステリー史上に重要と思われている作とか、日本の本格創作のシーンにとって重大な各キーワードの解説は、これは評論家など、専門家の協力を仰いで真摯な論文とし、こちらをせいぜい充実させることによって、「思い上がったお遊び本」という例の野次に対抗し、一方で当方自身も真摯に執筆時の背後事情とか、創作上の理論や用語の解説等に言及すれば、本格ムーヴメント終焉がささやかれる昨今、案外状況に抵抗する一冊ともできるかもしれない。
この本は、大きく売れることはないけれども、図書館や文学館、専門家や研究者たちの書斎には長く遺っていくものとなる可能性はそれなりにあり、その意味ではささやかな歴史の製作であるから、意味は見い出せる。そうなら、いっそ挑戦してみようかという話になった。

とはいえ、なにぶん前例のない大刊行物で、項目となる語彙の数は膨大となる。書物のツカは分厚くなりそうで、当然ながら小部数となるから、通常の作り方をしたら定価が1万円を越えるのは確実である。これを防ぎ、つまり単価をできるだけ下げ、しかも赤字を避けるためには、初段階の語彙の拾い出しの段階では、どうしても読者諸兄が手分けしての、ヴォランティア作業が必要となる。
そこでまず、しりとりが行われていた「奇想の源流」サイトの管理人tenさんと、このしりとりで議長的な役割を果たしていた「第七銀河」管理人のえいこさんとで、以下のような項目を含んだ、大辞典プロジェクトの内容を説明するサイトを制作してもらうことにした。そしてヴォランティアには常時これを閲覧してもらいながら、作業をしてもらう。

◆1、島田荘司・全著作のリスト作り。
◆2、リスト中から1〜2作をサンプルとして選び、抽出語彙の表を例として作る。
◆3、語彙拾い出しの基準を作る。
◆4、ヴォランティアの疑問に応えるQ&Aのページを制作。

◆1の、島田荘司・全著作のリスト作りというものは、全作品のリストがなくては、作品群の俯瞰ができないからで、そうならヴォランティアが、自分はどの作品を担当しようかと考えることができない。ぼくはもう20年以上も仕事を続けてきて、刊行冊数は膨大になっており、これには小説本以外も多いから、著者である当方自身ももう憶えられないくらいの量になっている。抽出済の作、未抽出の作を編集委員が把握するためにも、作品リストは必ず必要である。
 そしてこれは、各作品、最新版から古い版に向けるかたちで整理して、すべて提示し、タイトルが変わっているものはその旨を示して、最新・最終版を底本とすることが望ましいと断って、編集時の混乱がないようにする。

◆3、語彙拾い出しの基準を作るというのは、どんな語彙を拾い出したらよいのか、ヴォランティアの人たちとしても解らないだろうからだ。そして拾い出しの対象は、今やnetのフィールドまで広がっているから、たとえばデジカメ日記や、賞選考の文章などはどうするのか、といった疑問にもなろう。これは、これらもすべて含む、という決定にする。
とはいえ、ではどんな種類の語彙を、どんな基準で拾い出せば辞典が面白くなるのか、あるいは本の価値が上がるか、といったことは当方サイドにも経験がないから解らない。そこで、だいたいこのようなものであろうという見当をつけて、以下に示した。
この段階では、とりあえず以下のような語彙を機械的に拾い出してもらい、今後の製作過程のどこかの段階で、取捨選択を行えばよいと考えた。そして拾い出しヴォランティア自身がその重要度を2段階に分け、上のランクの語には★印を付してもらうのも整理上よいだろう。

 (1)人名
 (2)地名
 (3)印象的な固有名詞
 (4)登場する重要事物
 (5)印象的な台詞
 (6)印象的な文章表現
 (7)常用語彙(キーワード、論文の場合)

ここまでの作業がすんだので、完成したサイトをとりあえず「奇想の源流」サイトのしりとり関係者を中心に示し、語彙拾い出しのヴォランティアを募った。

完成したサイトのURLは、以下である。

http://www.galaxy7.org/information/book%20list/daijiten-rist.html

そうしてこの日、拾い出し作業に名乗りをあげてくれたヴォランティアたちに、新宿の原書房編集部に集まってもらった。東京に出てこられる人たちだけでも、とこちらは思ったのだが、関東地区でない「奇想の源流」の管理人tenさんや、いわきさん、有紀さん、遠く九州から千日紅さん、さらには京都から作家の岸田るり子さんまでがこの日、参加してくださった。
後は東京組で、「WS刊島田荘司」管理人のMatthewさん、「RoomS&7」管理人で、英国諜報部員の007号、「第七銀河」管理人のえいこさん、そしてメゴチさん、石塚桜子さん、Chatoさん、櫻井まやさん、山田さん、宮田さん、西澤さん、岩波さん、小島正樹氏、そしてご存知出版界のスーパースター、A井N充編集人も駈けつけ参加してくださった。

そこで彼らに向かい、さらなる内容説明と、質疑応答、それから余興として、数日後に放映が決まっている鹿賀丈史さん主演の吉敷もの、「灰の迷宮」の試写会もやった。
最初にまずはぼくが立って挨拶をして、どんな本を作りたいかを説明し、お願いしたいことを述べてから、I毛編集者にも、原書房編集部の立場からの計画や、お願いを話してもらった。続いて、彼に向かってみなで質問をぶつけた。I毛氏は過去、これほどツカのあるものではないが、「シャーロック・ホームズ辞典」というものを作った経験がある。
この日の質問は、やはり語彙の拾い出しの基準についての質問が多かった。重要な語彙と言っても、この「重要度」の基準が解らないという声は多い。これはもっともなことで、たとえばぼく自身においても、このような迷いがあった。ある著作に「りんご」という語彙があったとする。これは当然平易凡庸にすぎ、一般語彙にすぎるから落とす判断になる。しかしこの「りんご」も、山田さんのようなギャグの才能にかかれば、むしろ「コード型本格」という以上に面白い解説文がつくかもしれない。そう考えれば、果たして簡単に落としてよいものか。
しかしI毛氏の考えではこれは「落としてよい」。何故なら、たとえどれほどに面白い説明文がつく可能性があろうとも、「りんご」は島田荘司的語彙、島田荘司世界を感じさせる単語ではないからである。ビートルズなら、「りんご」は重要語彙かもしれない。
さてそうなると、重要度のものさしは複数、少なくとも2種類存在するかもしれないことになる。たとえば「公訴時効」という言葉がある、これは重要度を感じる語彙だが、それは世間的、法理論的な意味あいでの重要性であって、たとえばそれが「寝台特急はやぶさ1/60秒の壁」という作品に現れていたなら、当該島田作品に対してはそれほど重要でないかもしれない。少なくともそういう判断はあり得る。こういう場合、スタンダードがダブルになってしまってむずかしい。
しかし「公訴時効」は、「はやぶさ」においては重要でなくとも、「秋好英明事件」に現れれば重要であろう。よってこれは採ってもよいと思われる。というように、この判断は各局面でかなりむずかしいから、ここが最初にして最大のハードルであるかもしれない。
しかしこの作業は重要であり、この土台の出来いかんによって、いずれ姿を現す本の完成度が左右されるであろう。そしてここまでのこの作業がすめば、ここから原書房が本格的に参加する。

◆5、原書房サイト内に、一般閲覧可の「島田荘司大辞典・制作告知板」を設置する。
アラシが予想されるから、告知板にはレスは付けられない形式とし、抽出語彙のコピーや持ち帰りは可能なものとする。板の最下段には、HN、本名、メイル・アドレス、住所、電話番号等が書き込めるスペースと、投稿文が書き込める(貼れる)四角いスペース、そして「投稿送信ボタン」を付ける。
◆6、この板に、島田荘司・全著作リストを挙げ、各作品名の下に、ヴォランティアたちが抽出した語彙群を貼って提示、この段階で大辞典制作を公けにアナウンスする。この時、板に貼り出す語彙を、ヴォランティアによって抽出された語のすべてとするか、原書房編集部なり、ヴォランティア編集委員なりで取捨選択のふるいを通過させたものとするかは、現時点では未定。集まった語彙の量とか、作品ごとの量の凸凹度合いによるからだ。そしてこの板に、大辞典制作の趣旨、内容、どのような体裁の本とするか、などを原書房が説明する。
◆7、告知板に公開した各語彙の説明文を、広くnetフィールドから一般募集する。ユーモアのある文をイメージしているが、ものによっては高度な専門性も期待したい。公募には一度〆切を設け、期日を板に明示しておく。採用した説明文は、1本ごとに所定の稿料を金銭、もしくは図書券等で支払うという説明を、原書房が板で行う。
◆8、説明文の投稿は、告知板の下にある投稿欄から行う。投稿は、投稿フォームに沿って住所、氏名、HN、メイル・アドレス、電話番号(書けるだけのものでよい)を、所定のスペースに記入の上、提示語彙いずれかの説明文を、所定スペースに貼りつけ、投稿ボタンを押してもらうことで行う。だいたいこのようなものになるであろう。そしてこの以降の展開はというと、おおよそ以下のように予想している。

◆ 大辞典編集委員を選出し、選考委員会を組織する。
◆ メイルで原書房編集部に届いた説明文は、すべてを非公開とし、これらの内から面白い説明文を、I毛編集者を中心に、選考委員たちが選ぶ。
◆ ひとつの語彙について、魅力のある説明文が複数ある場合、併記も可とする。また、編集委員がそれらの文章を融合させてひとつの文章とすることも、場合によっては検討する。この場合は、執筆者署名が二文字、三文字と増える。
◆ 編集委員自身の投稿も自由とする。I毛編、T橋編も可。ただし、フェアを心がけるため、原則、締め切り以内に書くこととする。
◆ 採用を決めた優れた【語彙+説明文】は、完成したものから順次島田荘司に送り、島田が必要を感じたものについては、当事者の立場から補足説明のコメントを書いて末部に付ける。これは話し言葉(手紙文)で述べて、(島田荘司・談)と断る。
◆ 作品名は「ゴシック体」とし、各語彙の説明とは活字を変えて、一見で違いを示す。各作品の解説文は、これは真摯な研究論文とする。重要作はプロの評論家に解説文を発注し、各担当編集者の思い入れが強い作の場合、各担当編集者自身が解説文を執筆する。
◆ 採用した「各語彙+説明文」は、たとえば「インドネシアの恋歌」の場合なら、項目としての語彙の末尾に、【短・インドネシアの恋歌】と出展先を明示してのち、説明文を続ける。編集委員がこの作業を行う。
◆ このようにして完成させた各項目は、編集委員があいうえお順に整頓して、印刷所に入稿可能な状態にする。
◆ 作業を進行させながら、編集委員は並行して巻末の索引を作成していく。これらはだいたいの予想であって、進行につれて細部は変化していくと思われる。おおよそ2年計画のつもりなので、気の長い制作になる。よい本が出来上がってくれたらよいがと思っているが、むろんぼく自身も、全力をあげて制作に参加する。

そうしている間に、全集の配本が始まるはずだ。こちらは箱入の四六版であり、大辞典は箱なしのA5版となる可能性が高いが、両本の装丁を戸田ツトムさんに依頼すれば、両者の外観に類似性が出て、読者の書棚におさまった際に具合がよいであろうか、と今考えている。まあ装丁のことを考えるのは、まだ先の話になるが。

この日はその後、近くの居酒屋に移動して座敷にあがり、駈けつけた原書房、成瀬社長もまじえての食事会をやってから、カラオケボックスにまで繰り込み、解散とした。ボックスの前で記念撮影をしたので、この写真も公開しておこうか。
 
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