島田荘司 on line
on line top Weekly Shimada Soji top
編集室の窓から
島田荘司のデジカメ日記
第21回
写真をクリック!大きな画像で見られます。
島田荘司のデジカメ日記
島田荘司のデジカメ日記
島田荘司のデジカメ日記
島田荘司のデジカメ日記
島田荘司のデジカメ日記
11−7(火)、谷戸坂の、江戸千代紙の店
「季刊03クリスマス特集号」のための仕事のうちのメイン、小説「セント・ニコラスのダイヤモンドの靴」をようやく書き終えたので、後書きなどの細々とした仕上げにかかる前に、横浜山手のクリスマス・ショップの写真を撮影することにした。編集レイアウト上、画像は急ぐのだ。
そこでT橋氏が小説の原稿を抱え、編集室とデザイナーのオフィス、印刷所などをかけずり廻っている間、ぼくは車で単身横浜に出かけた。これまでの出版システムなら到底間に合わないところだが、今はコンピューターとデジカメの時代なので、出版までにあとひと月というこの時期に写真を撮って送っても、まだ掲載に間に合うのだ。ありがたい時代になった。
薄暮時の表現が得意なデジカメだから、到着が日没時になるように計算して出かけた。まだ夕陽の薄明かりが残っている時間帯、クリスマス・ショップ前のランプたちには灯が入るであろうから、周囲の光景はストロボなしの自然光で撮り、ライトの入ったランプは、光っている様子をそのままここに写し込む、こんな芸当が、デジカルなら可能なのである。こういう写真は、とても暖かい印象に写る。
車を時間の駐車場に入れ、港の見える丘公園に向かって谷戸坂をぶらぶらあがっていたら、左手の坂の下に、江戸千代紙の専門店を見つけた。一戸建てで、道の上から見降ろせば、この建物自体、なにやら積木細工の玩具のようだ。
坂の中途には着物を着た猫の絵の看板が立っており、千代紙の家の入口には「いせ辰」と店名を書いた暖簾がさがっていた。右手には招き猫が鎮座し、床には菊の花の鉢、その脇には座布団の載った緋毛氈の座卓。時代劇の舞台装置のようだ。暖簾に谷中と書いてあるから、江戸谷中が本店なのかもしれない。
店内には、千代紙を使って作ったさまざまな小物が、ずらりと並んで売られていた。財布、カレンダー、すごろく、額に入った絵、風呂敷、絵はがき、凧。これは売り物ではないだろうが、ガラスケースの上には歌舞伎の忠臣蔵の舞台、吉良邸討ち入りの場面が、和紙と木材で作られて載っていた。
店を出、坂に戻って公園寄りの高い場所に立ち、振り返ると、家の向こうにはひと筋マリンタワーが立ちあがる。右手の山は幕末、生麦事件で緊張し、上陸して駐留を開始するようになったフランス軍の基地があった。だからここを、今もフランス山と呼ぶ。
坂を下りきったところにある川は、関内を異人用の出島とするため、急遽幕府が切り通し工事を行った運河だ。運河沿いの元町には、ペリーが散策して樽作り職人の技を見学し、その熟練した技に感心して、日本人は将来もの作りの達人になるであろうという、まことに正当至極な予言を遺したエピソードがある。
歴史の街、横浜ならばこそ、こういう店も江戸から引き寄せたのであろう。
デジカメ日記 バックナンバー

Copyright 2000 Hara Shobo All Rights Reserved