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編集室の窓から
島田荘司のデジカメ日記
第209回
島田荘司のデジカメ日記
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5−1(土)、2度目の「はやぶさ」ミーティング。
新宿京王プラザ・ホテルの3階カクテル&ティで、午後1時から、2度目の「寝台特急はやぶさ1/60秒の壁」、テレビ化のためのミーティングが行われた。参加者は千葉プロデューサーとアシスタントの女性、安井ひろみプロデューサーに脚本家の高田純氏、光文社のA井氏、それに原作者のぼくという6人だった。脚本執筆の時間は充分なのかと危ぶんでいたが、無事完成し、送られてきた。すでに読んでいたので、ぼくは改善の腹案を持って出かけていった。
高田氏の脚本は、充分によいできだった。特に冒頭、双眼鏡で覗きをしている小説家が、死体の顔の部分がずると視界に滑り降りてくる場面、瞬間的に列車通過の轟音がかぶさるあたりは、見事な仕掛けで感心した。大画面の映画館で観たいようなシーンで、1度で消えていくテレビで出してしまうのは、なにやらもったいないような気さえするアイデアである。
この小説を脚本化している時、非常に楽しかったし、うまく行ったので、自分の内にまだこんな力が残っていたのかと自分でも驚いた、というようなコメントを、高田氏がどこかでしている話を聞いた。実際そんなふうで、彼はまだまだこれから第一線級の仕事ができる人だと感じた。
そのようなことを言ってほめたら、「それはどうも」と彼は言って、けっこう嬉しそうだった。その上で、改善の提案をした。この事件は、死んでいるはずの千鶴子が寝台特急に乗っていて、さらには車内に居合わせたアマチュア・カメラマンに写真まで撮られている、というのが主たる謎であるから、時間の経過が重要になる。この出来事とこの出来事との前後関係はどうであったか、といったようなことだ。本の場合は何度でも前のページに戻って読み直せるが、テレビではそうはいかない。
そこで捜査一課の刑事部屋で、ホワイトボードでも使い、棒状のタイムテーブを書いて、刑事の誰かに時間経過の部分部分を説明させてはどうかと提案した。ここで千鶴子の死体が小説家に目撃される。死亡推定時刻はこのあたりで、彼女の乗っていた寝台特急「はやぶさ」は、この時刻に東京駅を出ている。それから列車が**駅あたりにさしかかったこの時刻に、千鶴子は写真家に通路で撮影を撮られている、だからこの時間に彼女が死んでいるはずはないのだ、といった内訳の再説明である。
タイムテーブルから線を引き、こういうそれぞれの起こった時刻も脇に書き込む。かたわらに、ブルートレイン「はやぶさ」の写真をマグネットでとめておいてもよい。全体のできごとをヴィジュアル一発で示せれば、視聴者にすぐ謎の構造を呑み込んでもらえる。現状は台詞での説明が続くので、よほど熱心に観てくれている人以外には、何が謎であるのかが正確に掴みづらいきらいがある、そういう説明をした。
高田氏は尺(ドラマ全体の時間)のことを気にしていたと言い、それは賛成だと言って、この補強案を受け入れてくれた。ほかにも幾つか考えを述べたが、みんな大変紳士的にこちらの意見を聞いてくれ、やりやすかった。ドラマの大きな骨組はここで決まってしまうので、これはぼくにとっては大切な時間である。ディテイルは、現場でも修正がきくが、大枠だけは、現場に入る前に決定しておかなくてはならない。そしてディテイルに関してなら、ぼくなどより現場の専門家の方がよく解る。
吉敷役の鹿賀丈史さん当人が、43歳という設定には難色をしめしている、ということを千葉プロデューサーが言った。そうかもしれないが、これはわざわざ年齢の数字など、ドラマの中で口にしなければよかろう、という話になった。また鹿賀さんは、脚本には口を出す方の人だが、今回のこれに関しては、何も言ってはいないという。ただ早くやろうと言っているらしい。
それから、これはもう最初からシリーズ化を目指してスタートするので、先のために1回目の「はやぶさ」から、もう通子の顔を出しておこうという話になっている。だから釧路での吉敷と通子の場面がすでに書かれ、入っている。製作は釧路ロケからスタートするらしい。この通子には誰がいいのかという話になった。有力候補は南果歩さん、余貴美子さんあたりだという。高田氏は、南さんなら安心して演技を見ていられる、と言った。ぼくの場合はどちらの人もよく知らないので、これはまかせるよりほかはない。
ただ、できることなら金田賢一さんをどこかに出して欲しいのだけれども、とだけ言っておいた。千葉プロデューサーは頷いていたが、ちょっとむずかしそうな気配だった。
オンエアの日取りは未定で、テレビの2時間ものというのは、製作したらその番組の蔵に届けておいて、局側が自分の考えで順次出していくものらしい。だから作ったが日の目は見なかった、というものもたまには出る。「はやぶさ」はそんなことはないし、今あんまりストックがないので、9月くらいにもう出てくる可能性がある、と千葉氏は言った。
それはよいことなんですかと問うと、あんまりよいことではないです、と彼は言う。何故かというと、これは特番ワクというものがある時期で、注目度はあるが、ここにぶつけていくと、ライヴァルがひしめくので、まず視聴率は取れないのだという。つまり数字が通常の何割か減となる。しかしライヴァルが多くて注目度もあるのなら、これは望むところではないですか? とぼくは言っておいた。がまあ、そういう簡単なものでもないのであろう。
6月のなかばまでロケをしているので、よければ終了までに帰国して、1度収録を見てはどうか。鹿賀氏にも会っておいてはどうかと高田氏は言ってくれた。できたらそうしたいと応えた。しかしシリーズ化するのならまだ先もある。そう急ぐ必要もないのではと思っている。
この日はこれくらいの話で別れたが、後日、主な配役が下のように決まったと連絡があった。うまく行くことを願っている。
吉敷竹史  鹿賀丈史
有賀葉月  真中瞳
小谷勇一  賀集利樹
中村吉造  夏八木勲
川合    高橋長英
畑山    山本龍二
船田    小倉久寛

通子は、余貴美子さんに決定した。
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