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編集室の窓から
島田荘司のデジカメ日記
第204回
島田荘司のデジカメ日記
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4−18(日)、石塚桜子展。
西日暮里の「HIGURE contemporary art studio」に、桜子さんの個展を観にいく。西日暮里駅の北口改札を出て、駅前に歩み出す。ここからヒグレ画廊までのアプローチが、とても心地よい道ゆきだった。
左手に墓所が見え、右手には寺の門が見える。寺も門も、あまり大きすぎず、この街並みにほどよい。門には戊辰戦争時の銃痕がまだ遺っているそうだ。
さらに行くと、乾物屋とか骨董品屋があり、ごく小さな食料品のモールがあって、大きな二股に出る。あたりには大勢子供らが遊んでいる。右手に道をとるとゆるい下り坂になって、石段になる。これを下りきったところに飴屋があるから、この手前を右に曲がる。
道が狭くなって、右手に竹細工の店がある。そのまままっすぐに行くと、屋上にピンクの駱駝が乗ったビルがあり、その1階がヒグレ画廊だった。夕餉の時刻にでも歩けば、典型的な東京の下町が展開しそうな一帯である。夕餉の香りの中をぶらついて、古い和風の喫茶店でも探したいような気分になった。
画廊は一部天井が高くて、大作を眺めるのに具合がよくできている。2階も地階もあり、大きく3層になっている。しかし1階も2層に分かれているから、正確には4層だ。この4つのフロアを登り降りしながら、桜子さんの大作を中心に鑑賞する。白い壁に、ぼくなどにはもうよく見馴れた作品がたくさんかかっている。
やはり実物は、特有の迫力がある。こういう余裕のある空間で眺めるのはよいものだ。桜子さんの絵は、特にそう思える。画家自身、本来はこういうアトリエを持つのがよい。でないと、製作中とこうして画廊の壁にかけた時とで、絵が違って見える時がある。
しかし絵によっては、狭い場所の方が馴染むものもある。そしてこれは、どちらが上とは言いがたい。これはちょうどすべての音楽が、大音量で聴くのがよいとは限らない、というのと似ている。しかしローリングストーンズなら、常に大きな音の方がよい。桜子さんの絵は、そっちの側に思える。広い空間に桜子さんの才気がただよい、渦を巻いている。
画廊にはお父さんとお母さんがいて、桜子さんは食事に出ていた。すぐに呼び戻しますから、と言ってくださった。お母さんは大変喜んでくださり、しばらく話していたら、桜子さんが帰ってきた。彼女の案内で各作品を観て廻る。
ぼくが知らなかったものは写真だ。桜子さんは写真作品も創っていて、古いビルや工事現場、植物などを、モノクロのフィルムで撮っている。フィルムに引っかき傷を入れて焼いた作品もある。これを束ねた作品集が、小さな台に乗っていた。
桜子さんと一緒にインドを放浪したという親友の女性が来ていて、少し話した。大阪の明るい女性で、桜子が、絵が売れる画家になるとは思わなかったと言っていた。SSKや出版社関係の人がずいぶん訪れて、たくさん作品を買っていってくれたそうである。新人としては、これは大変なことだ。通常こういうことが起こるのは、まだずっと先になる。
地階に降り、桜子さんやご両親と、お茶を飲んで話した。この建物は、もとはマネキン人形の製作工房だったのだそうだ。だから地下のフロアのすみには、工房当時の大きな工作機械がでんと置かれ、残っている。内部に付いた刃はまだ鋭利で、危険だそうだ。
人形の製作工場というと「占星術殺人事件」を思い出し、なんだかノスタルジーが湧く。いや拙作というより、海野十三さんや米田三星さんの活動した一時期を連想させて懐かしい。工作機械は重そうで、迫力があり、これ自体が一体の作品のように見える。
1階にも小型の機械があって、これはテーブルとして使われていた。桜子さんはこの上に「透明人間の納屋」とか、「メフィスト」の最新号を積んでいた。自分の仕事が載っている本である。講談社から仕入れてきたらしい。出遭った頃からすれば、彼女は確実に大きくなった。
ご両親に、画家の桜井浜江さんについて訊いてみた。ふくやま文学館のスタッフが、太宰研究の一貫で、桜井さんにお話を聞きたいということなのだけれども、可能なのかということについてである。しかし桜井さんは今体が悪くなられ、入院中だということであった。病院は解らない。話ができるかどうかも解らない。ともかく訊いてみてくださるとということになった。
桜子さんはこの時、小品を何点かくださった。恐縮である。アメリカの家の壁を飾るコレクションが、これでずいぶん増えた。
西日暮里の駅に帰る道を、桜子さんと、彼女の親友が送ってきてくれた。画家の世界はぼくはとても好きで、個展を覗いて歩くのは大好きである。彼女には、さらに大きくなってもらいたいと思う。
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