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島田荘司のデジカメ日記
第20回
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11−6(月)、かれいの甘酢あんかけ
日本にいて吉祥寺に暮らしている時代から、ずっと食べていたのが中華レストラン「一番」の、カレイの甘酢あんかけである。これは好きで、三日とあげずに食べていた。帰国すると、今も必ず食べにいく。この店に来ると必ずかれいの甘酢あんかけ。あとは餃子とビールくらいしか味を知らない。幸いなことは、もうここを知って15年は経つと思うのだけど、まだ変わらずにある。最近改装して、店内外が小奇麗になった。
考えてみれば、ぼくが吉祥寺によく来るようになったのは、この街に武蔵美があった時代からだから、およそ30年近くにもなる。その後はジャズ喫茶の時代になり、「ファンキー」とか「アウトバック」、ロック喫茶の「赤毛とそばかす」などができたから来るようになった。その頃は「バンビ」というお気に入りの洋食のレストランがあったが、これはもうなくなった。ファンキーは今のパルコの場所にあったから、移転してアルコールの店になり、ジャズを本気で聴かせる店ではなくなった。アウトバックも赤毛もなくなって、かつてのファンキー・グループらしい店というと、ライヴもやる「サムタイム」だけになった。
料理もまた詳しくないのでよくは解らないが、「かれいの甘酢あんかけ」は、かれいを軽く揚げて、その上に野菜がたくさん入った片栗粉の甘酢っぱいとろみをたっぷりかけてある。魚肉がこれに埋まっているから、かれいの小骨が発見できず、時として食べにくい。
中華料理の歴史の本を読んでいたら、片栗粉のとろみをかけるこの方法は、料理を長く冷やさないために考えられたということだ。確かにこの甘酢はきわめて熱くて、焦って食べたら舌を火傷するから要注意である。
何年も食べていたら、魚の鮮度まで見当がつくようになった。こんなことは全然目ざしてもいなかったからどうでもいいのだが、やはり反復は上達の唯一の方法である。野菜入りのあんかけをかき分け、背中側の肉を食べつくし、骨にしたら、腹側の薄い肉も食べるべくこれを箸で持ちあげ、ぐいと裏返せれば魚が新しい。古いとたちまちぽろぽろとくずれ、これができない。しかしいずれにしても味はほとんど変わらず、とてもおいしい。フランス料理もそうであるが、この片栗粉のあんかけは、保温だけでなく、材料の新旧を目立たなくする効能もある。しかしかれいのという魚がこんなにうまいものとは、この店に来るようになって知った。
まったくの余談だが、「一番」という日本語は、アメリカ人にも馴染みがあるものとみえてけっこう聞く。ただし戦中派のアメリカ人であるが。日本への原爆投下作戦は、ある段階からは「イチバン」と呼ばれるようになったと聞いたことがあるし、どこかでエッセーに書いた記憶があるが、サンフランシスコからの帰り道、日本への進駐軍の一員だったというアメリカ人と知りあったら、米軍駐留下の横浜に、「イチバン」という米人向けのホテルがあったと言っていた。そういえば日本軍支給のコンドームは、「突撃一番」という商品名だったそうだし、「一番」という語は景気がよくて戦争に向いている。平和な今、これらはみんな滅んでしまった。
でもかれいの甘酢あんかけに関してだけは、ぼくの知る限り「一番」のものが「一番」である。


※一番のカレイの甘酢あんかけは、単品で880円。150円プラスでライス、ミソ汁、小鉢、オシンコ付のセットにできます。島田先生がいつもめし上がっているのは、このセットメニューです。
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