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編集室の窓から
島田荘司のデジカメ日記
第192回
島田荘司のデジカメ日記
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2−18(水)、西荻「日月潭」で、御手洗さん映画発進報告会。
東映の香月プロデューサーの奥さんが、昨年の12月、西荻窪に「日月潭」という喫茶店をオープンした。10数席の、こじんまりとしているがとても感じのよい店で、昼間は喫茶店だが、夜はアルコールも出す。
「日月潭」というのは台湾にある湖の名前で、1度行って気に入ったから店の名にした。場所は西荻駅の南側、少女漫画家の松苗あけみさんという人の実家の表具屋さんが駅付近にあるのだが、ここの角を曲がってちょっと入ったあたりにある。駅からは徒歩で7〜8分であろうか。
奥さんはもと脚本を書いていた人で、香月さんとは社内恋愛で結ばれた。美人で、人柄も大変よい明るい女性だ。香月さんが製作に挑戦している御手洗さん映画の、もっかの進行状況について、関係者諸兄は知りたいであろうから、1度報告会をやろうという話になった。会場はどこでもいいのだが、いっそ彼の店を関係者諸兄に知ってもらおうということで、西荻「日月潭」で開くことをぼくが提案した。
椅子の数が少なく、大勢は入れない。しかし御手洗さん関連の本を、1度でも出したことのある人にはみんな声をかけておこうということで、片端からメイルを出したら、出張で来られなかったのは角川のA立氏のみで、講談社の唐木氏、宇山氏、講談社文庫のM澤さん、文春のA俣さん、東京創元社の取締役で「ミステリーズ!」の担当者でもあるI垣さん、原書房のI毛さん、南雲堂のH野さんにタック氏、さらにはIBCパブリッシング、これはもっか進行している「占星術殺人事件」の英訳版、このたび「Tokyo Zodiac Murders」と英タイトルを決定したのだが、この本の出版社の村田社長までが来てくれて、さらには光文社のおなじみA井氏に、「透明人間の納屋」の画家、石塚桜子さん、サイト代表としてPattyさんという具合で、これに当の香月氏にぼく、さらには吉敷ものの原作を預けている安井ひろみプロデューサーまでが加わったので、店に入りきらなくなった。到底机と椅子を使える状態ではなくなって、店は急遽貸し切りとし、机は取り払って、椅子のみを円状にフロアに並べた。そしてぼくと香月氏がみなさんの前方、円の中心にすわった。

まずはみなさんで自己紹介をする。IBCの村田社長は、この時ぼくも初対面だったのだが、非常に若い印象の、魅力的な人物だった。かつて講談社インターナショナルにいた人で、独立して英語本を専門に出版する会社を興した。日本にある会社だが、聞いてみると、日本国内にも英語人は非常に多く、日本国内を対象にするだけでも馬鹿にできない部数が出るのだという。しかしむろん彼の仕事は海外がメインのターゲットで、海外には活字関係だけでなく、映像関係の友人も多い。仕事には映像やゲームも含まれていて、将来はまことに有望な会社である。彼は、講談社インターナショナルの時代からぼくの本は読んでくれていて、「だから、実は今緊張しているんです」などと言ってくれた。
安井プロデューサーは、「吉敷もののテレビ化はもっか大いに進行しているのですが、今日は御手洗さんの報告会なので、私の方の報告は次回にします」、と言った。
御手洗さん映画がどこまで進んでいるのかと言うと、今のところ脚本ができたというあたりである。これは第2稿まで来た。といってもぼくが見たのはこの第2稿が最初である。
香月氏がまず挨拶して、続いてぼくが、われわれ2人の関わりのいきさつを説明した。最初に彼から話があったのはもう去年のことになる。彼と麻布で会った時は、実はぼくとしては了承する気はなかった。しかし会って話すうちに、香月さんという人に、プロデューサーによくみかける商売人ふうのもの馴れた気配とか、丁重を装っていても、どこかで相手を舐めたり、威張ったりしているようなあの様子がなく、非常に真剣で真摯な様子があり、打たれたこと。御手洗さんのものをすっかり読んでくれていて、御手洗さんの人となりをよく理解してくれていること、そしてこれは挑戦であり、むずかしければ深追いはせず、潔く撤退すると言ってくれたことも気に入って、挑戦には了承しようかという気にだんだんになった。またこの時点では、実際のところまず実現はしないであろうと感じ、解りましたと了承した。
さらに聞いてみると、もともとこの話は、東映の岡田社長自身の口から出たものだという。「島田さんという作家のこの『占星術殺人事件』、なんとかならんか」、と社長からじきじきに問われた。この時香月氏は、御手洗ものはまだ短編集しか読んでいなかった。仕事が忙しく、長編はと見ると軒並み分厚いので、ちょっと尻ごみをしていたのだという。
しかし社長に言われたので、それからは猛然と御手洗全作品を読破した。そして、最初の映画化作品には「暗闇坂の人食いの木」がふさわしいと考えるにいたった。そして今後の自分の野望としては、御手洗映画は3部作としたい。最初の1編は「暗闇坂」、そして最後の作はこれはもう決まっていて、「異邦の騎士」なのだという。2番目には何がいいのか、今ちょっと迷っているのだが、やはり「占星術殺人事件」だろうかと思う、というようなことを、彼は急がず、ぼつぼつと語ってくれた。
その時文庫のM澤さんも隣りにいて、「数字錠」などどうでしょうと言った。なるほどとぼくは思ったが、香月氏は頷かないで、自分の考えを静かに述べた。非常に穏やかな印象の人物だが、聞けば射手座だというし、内心の強さはなかなかのものと感じた。
それで思い出したのだが、東映の前社長、岡田茂氏という人は、どうやら母親の初恋の男性らしいのである。岡田茂氏は、広島の高校から東大に進み、東大では柔道部でならした猛者でもあるのだが、広島の高校生時代、母親とよく市電で一緒になった。当時のことで、何があったというわけでもないのだが、見詰め合う機会もあったらしい。だからこのような話を、その息子の裕介さんが提案してくれたのは奇遇というもので、そんないきさつも、ぼくに話を断りづらい気分にさせた。
そうして何回か会い、メイルのやり取りも重ねて、脚本ができあがるところまできた、とそんなような話をぼくはした。「暗闇坂」の現場の邸宅は、口を開いて歌う不気味な人体がいたりと、美術にかなり凝ることになるが、美術監督には女性を抜擢したいという構想を、香月氏は持っている。この日は、そこまでの説明はしなかった。
いずれにしても、報告といっても具体的な進展部分は、脚本ができていますというくらいのことなので、これまでのわれわれのかかわりについての話と、もし具体的に進行しはじめたら、効果を計算して、いっせいに露出することを考えたいので、みなさんその際にはどうぞご協力をよろしくお願いします、と香月氏が言った。原書房のI毛氏が、そうなら「ミタライカフェ、映画特集号」を作ってもいいと言った。
Pattyさんが、御手洗さん役者は誰を、とさっそく訊いた。これは誰もが知りたいことだった。が、これは候補はいろいろとあるけれども、今後大いに流動するであろうから、まだ発表の段階ではありませんと香月氏は言った。レオナ役は? となおも訊かれるが、これも同じです、しかし御手洗さん役者がもし動員力のある大物なら、いっそ新人を、ということもあり得ます、と述べる。
それからはレオナの性格についてとか、アメリカ女性の日頃の様子とか、強さと威張りの関係、優しさ、強さ、自己愛情、損得意識の相関関係、といったような話になった。

適当な時間で日月潭はお開きにして、近くの、香月氏が予約しておいてくれた、ビールと、ちょっとした突き出しが食べられる店に移動して、乾杯をした。
村田社長が、ワーナー・パイオニアでヴィン・ディーセルと仕事をしている友人とか、ハリウッドには映像関係の知り合いが多いので、「Tokyo Zodiac Murders」の見本ができたら、本を持ってこれらの人に見せて廻り、売り込んでみるつもりだと語った。こっちのハードルは気が遠くなるほどに高いが、夢の部分として、挑戦は続けて欲しいものと思っている。また東映との日米合作映画というような展開も、できるならば楽しい。大いに語り合い、そして、遠方の人も電車で帰れる時刻に解散した。
報告することは少なかったが、御手洗さん映画の挑戦も始まったということを、みなで確認しあった宵だった。
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