島田荘司 on line
on line top Weekly Shimada Soji top
編集室の窓から
島田荘司のデジカメ日記
第18回
写真をクリック!大きな画像で見られます。
島田荘司のデジカメ日記
島田荘司のデジカメ日記
島田荘司のデジカメ日記
11−3(金)、日米喫茶店比較論
雨の井の頭公園を抜け、公園通りへの濡れた石段をあがると、あがりきった左側にスターバックス・コーヒーがある。これはロスアンジェルスではまことにポピュラーな店で、街のいたるところにあり、LAに暮らすようになった当初からよく行く機会があった。メルローズ沿いのもの、サンタモニカのリンカン・ブールヴァード沿いとか、メイン・ストリート沿いのものによく行った。
アメリカの喫茶店は、日本のものとはかなり様子が違っていて、まずは値段が安い。メニューはすべて2ドル台で、すべてというのは、これが実にアメリカ的な価値観なのだが、ただのコーヒー紅茶でなく、フレイヴァードなメニューが多く揃えてあるのだ。いわばアーティフィシャル(人工的)な行き方で、まるでカクテルでも楽しむようにして、アメリカ人はさまざまなホット・ドリンクを作りだしている。コーヒーでは通常のプレーンやエスプレッソのほか、カフェ・ラテ、カフェ・モカ、紅茶ではチャイ・ラテが人気がある。
安い理由のひとつは、セルフ・サーヴィス方式だからだ。つまりウェイトレスがいない。われわれはカウンターに並び、自分でコーヒーを買って席を探す。コーヒーは紙のコップに入ってやってくる。だからコーヒー・カップを洗う人間も要らない。コップには紙のベルトが巻いてあって、これにグリップが付いている。むろん熱いからだ。
コップにはプラスティックの蓋がかぶせられていて、蓋の一方にごく小さな口があり「SIP(すする)」と書いてある。車の中で飲むような時、倒れてもこぼれにくい仕組みになっている。これも新発明で、このような形状の紙コップは、アメリカに行ってはじめて見た。アメリカ人は、発明品をどんどんに製品に登用する。
スターバックスのスタイルは、ガス・ステーション(ガソリンスタンド)の様子とも似ている。50年代まではアメリカのGSも、スタッフがわっと車に寄ってくる日本と同じ形式だったが、アメリカの世論がサーヴィスは拒否し、安いガソリンの方をとって、大半のGSをセルフ・サーヴィスにしてしまった。喫茶店もまた、アメリカ人はウェイトレスのサーヴィスより、安いコーヒーの方をとったのだ。考えてみれば、ただお茶を飲むだけで、日本の喫茶店は高すぎるかもしれない。
ちょっと余談だが、ただし日本のGSでこの真似をしても、安いガソリンは手に入らない。日本のガソリン代のかなりの部分、つまり高い理由は、人件費でなく税金だからだ。日本で安いガソリンを得たいなら、お上のこの江戸時代的自動車贅沢発想、禁止税発想を改めさせなくてはならない。それから儒教型愚民政策なので、無知な素人に可燃物を自分で給油させることは消防法で厳禁している。であるから、はっきり言って日本では改善は絶望である。これを改めさせるには、陪審制度実施などから徐々に国民立法型に向かって切り込んでいくのがよい。しかし残念ながらわが国は、国民自身がこれに反対している。
ともかくスターバックスであるが、アメリカ生活でこれになじんで帰国したら、吉祥寺にもこれができていたからびっくりした。アメリカのスターバックスと較べれば、ずいぶんと小さくて狭い印象だ。そのせいかいつも混んでいるので、まだ入ったことはない。だから本場との比較はできないが、たぶんこちらのものもセルフサーヴィスになっているのだろう。LAのスターバックスには、必ずといっていいくらいにアウトサイドの席が用意されているのだが、日本のものも、前庭に席が用意されている。しかし本日は雨なので、椅子も出されてはいず、外にいる人はない。
その隣り、階段の左側中途には伊勢屋という焼鳥屋があって、これは吉祥寺在住の文化人たちにずいぶん有名らしい。伊勢屋は吉祥寺には2軒あって、これはぼくが吉祥寺に移ってきた当初からある。ずいぶん名前を聞くので、一度入ってみたいものと思っていたが、機会がなかった。そうしたらブルータスという雑誌がグラビアに出てくれと言ってきて、この店先にすわっているところを撮影ということになった。おかげで入れたけれども、ストロボをどんどん炊かれる中、焼き鳥の味など解らなかったし、それからしばらくの間、駅前に出る時は遠くを廻り道しなくてはならなかった。
駅前に出るのはたいてい編集者に会うためで、これには南口駅前のルノアールをずっと使っている。この店は誰にもすぐに解るし、駅から数秒、店内が広いので席が見つからないということがない。昼食時にはランチもあるし、また年中無休で元旦からやっている。それで東京に戻っている時は、連日ルノアールに出勤ということになり、こういう事情をよく知る編集者は、家でぼくが捕まらないと、ルノアールに電話をかけてくる。
店の禁煙席の窓際にかけ、長々と打ち合わせをしていると、窓外には陽が落ちていく。こちらは駅裏なので、傘やバスが行き交う眼下はいくぶんかみすぼらしい。しかし、「アトポス」も「眩暈」も、こんな風景を眺めながら仕上げた。
デジカメ日記 バックナンバー

Copyright 2000 Hara Shobo All Rights Reserved