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編集室の窓から
島田荘司のデジカメ日記
第178回
島田荘司のデジカメ日記
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8−29(金)、ホテル・ヴェネツィア。
LAに帰る前に、本物のゴンドラに乗れるという、最近話題の新築ホテル、ヴェネティアだけは観ておこうと思ってまたラス・ヴェガス・ブールーヴァードに戻った。
8月のLVの昼は異様に暑い。もともと砂漠のただ中だったのだから、当然といえば当然だ。そこに湯水のように電力を注ぎ込み、こういう人工のオアシスを作った。パヴィリオン内の通路を歩いているうちはいいが、表の舗道に出たり、歩道橋を渡りはじめたりすれば、たちまち頬が痛いくらいの太陽光線を浴びる。夏のラス・ヴェガスをそぞろ歩きたいなら、断然夜がよい。新宿歌舞伎町より洒落ていて、遥かに安全な不夜城が、ネヴァダ砂漠のここにはある。
ヴェネツィアを目指し、ぶらぶら歩いてたどり着けば、なるほど見事な外観である。こうして写真にすれば、水と建物の対比も美しく、本物のヴェネツィアと寸分たがわぬ風景写真ができあがる。青く見える水に浮かぶ黒いゴンドラも、小田急ハイランドあたりのものとは違って、細部までできのよい本物、上で棹さすイタリア野郎も、ヴェネツィア直輸入の本物である。ここがさすがに金のかかったラス・ヴェガスというもので、彼らはラス・ヴェガスには来ても、もうジパングには行かないらしい。黄金の国は実は極東の島国ではなく、大西洋を越えたネヴァダの砂漠と知ってしまった。
イタリア直産の男たちは、あちこちのゴンドラの上で自慢の喉を披露している。歌はイタリア民謡で、たいていは誰もが知る「サンタ・ルチア」である。この歌、実は英訳されてエルヴィスも歌っている。彼のものは「It's now or never」と言い、これは彼が徴兵に応じて西ドイツに赴任し、除隊、帰国してすぐレコーディングした大ヒット曲である。入隊直後には、その以前に録音して隠しておいた「GIブルース」を世に出し、これも如才なく大ヒットさせている。これは切れ者で名高い彼のマネージャー、パーカー大佐の計算だった。エルヴィスの赴任先がイタリアであったなら、「It's now or never」はもっと完全だった。たぶんドイツ歌曲には、ポップスになり得るようなよいものがなかったのであろう。
ともかくゴンドラだが、自慢の喉を披露するサーヴィスも当然というもので、ゴンドラが周回するのはホテル・ビル前のごく小さなプールである。しかも炎天下の苦行、歌のひとつくらいなければ、客から苦情が出る。これから行く人があれば、ゴンドラには室内で乗ることを勧める。
室内には、シーザース・パレスのものに似た、見事な街が作られている。サンマルコ広場を模しているのだろうか。まだ行っていないので解らない。床は濡れた石畳を表現したふうの、例のシーザース・パレスとも共通のものである。
街のすみに運河が作られていて、ここにもゴンドラが行き来している。こちらも広くはないが、うんと涼しげで、客たちも楽そうだ。石の柵に上体をもたせ、道から聴く限りでは、こっちの船頭たちの方に年輩者が多く、歌唱も朗々として、喉が豊かだ。
運河に沿って、ブランド品の店々が並ぶ。イタリアン・ブランドには詳しくないのでよく解らないが、たぶん大変な高級品店街なのだろう。精密な瀬戸物細工に惹かれて一軒に入ってみたら、蒸気機関車とか、日傘をさした貴婦人の群を表現した大きな置き物が点在して、これらに日本円でいうと数10万円、数百万円の値札が付いていて驚かされる。数百万円も勝った日には、気が大きくなってこういうものをぽんぽん買うのであろうか。いずれにしても、金は家に持ち帰らせない仕掛けになっている。
あるギャンブラーの友人がこう言っていた。競馬は勝っても意味がない。その金を翌日にまた賭けるだけだからだ。その日また勝っても、次の日には賭けてしまう。こうして、結局負けるまでやるのだ。それがギャンブラーの宿命というもので、ほかに遣い道を思いつけないのだから、金は残ることがない。そうなら競馬場は、客の1人1人にPCとテーブル、ふかふかの椅子くらいは提供すべきだ。そのくらいの金は楽に遣っている。ところが日本の競馬場ときたら、コーヒー一杯を売っても、客には階段に腰かけて飲めという。椅子も出さない、まったくけしからんところだ、とそういうことである。
確かにそうであろう。本気のギャンブラーは。、競馬場に月に百万くらいは軽く費やす。それなのに、日本の競馬場風景は異様に貧しい。たぶんラス・ヴェガスも、費やす金はそんなものであろう。あるいはもっとかもしれない。が、ここにはもう少しリッチで、至れり尽せりのエンターテインメントが用意されている。むろんそれは主として妻子のためのもので、家人から苦情を出させないための配慮ではある。以前のように、1人の富豪から一万ドルを巻き上げる商法ではなく、100人の客から100ドルずつを取るという、LVの商売転換の現れでもある。しかし女性好みのこの見事なモールは、勝った金をなんとか遣わせたいという、たくましい商法の現れでもある。
ニューヨーカーもそうらしいが、アメリカの男たちはギャンブルが大好きだ。たぶんもともとは狩猟民族の彼らだから、スーツを着ておとなしくサラリーマンをやっていれば、闘争心のはけ場所に困って、このようなスリルの場所に本能的に足が向くのであろう。その気持ちもよく解るが、ギャンブルにまるで興味のない人間には、ここはそういう両者の思惑の狭間に隠れて、なかなか安く遊べるパラダイスである。
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