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島田荘司のデジカメ日記
第169回
島田荘司のデジカメ日記
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6−8(日)、Children of the Galf War写真展。
「湾岸戦争の子供たち」と題する写真展が、LAシャロン・ロードの、マウント・セント・メアリーズ・カレッジで開かれているという情報を、こちらのテレビや、ブリッジUSAという日本語の情報誌で得たので、見学に出かけた。
マウント・セント・メアリーズ・カレッジは、LAの北、どちらかというと高級地に属して、以前マリリン・モンローの家とか、O・J・シンプソンの家を探して走り廻った方角だった。しかしカレッジ自体はかなり山の上にある。
写真展は、教室のひとつを借りて開かれている、ごくささやかなものだった。日本でならこの種の催しはデパートで開かれるところだが、自動車の街LAでは、デパートというものがもうその手の機能を放棄している。そもそも日本式のデパートなどはほとんどない。
閉館ぎりぎりの夕刻に行ったせいもあるのだが、室内はがらがらで、入場者は、すみで関連のヴィデオを観ている学生らしい青年が一人だけというありさまだった。

この写真展の写真家は森住卓さんといい、湾岸戦争後のイラクに98年から住み、イラク国民の写真を撮りつづけている日本人の写真家である。受付の女性の話では、日本でも展覧会を何回かやり、続いてこちらでも、有志の協力を得て開いているのだと言う。
展示写真のうちには奇形児の写真もあった。これが最も衝撃的なものであろう。生んでみたら奇形児だったので、母親はショックを受け、まもなく病院から姿を消してしまったとある。
奇形児の問題はむずかしい。身障者の親たちを傷つけかねないので、日本では公開することも、おおっぴらに語ることもタブーとなっている。奇妙なことだが、どれほど真摯な語り口をしても、日本には晒し首、見世物小屋、衛生博覧会、といった伝統があるからと思われる。そしてこういうこととは別に、医学者たちからの反論に出会うことも多い。
反戦とか、環境破壊に対する活動家は、奇形児が生まれると、それは環境が汚染されたゆえとする単純なストーリーを組みやすい。しかしそれは科学者の側からすると苦笑すべき素人考えで、奇形児は、産業革命以前から一定量出産している。別に環境汚染のせいではないと感じる。これもプロ優越意識の根強い、そして愚民発想の長い日本型の現象で、どうしても対素人冷笑意識というものは、常識として玄人には発生しやすい。
しかし、現実に環境の汚染によっても奇形児は生まれている。これも確かなことであり、ここがむずかしいところだ。またこういう学者たちの発想が、環境破壊産業に利用されることも起こる。産学共同の時代でもある。酸性雨が問題になっているが、これは有志以前から、火山の噴火によっても起こっている。しかし、環境の劣化によっても実際に起こるのだ。
これは要するにデーターによる数量を比較しなくてはならない問題で、日本型のゼロか無限大かの綱引き議論をやっても、時間の無駄であることが多い。環境の汚染によって、どの程度奇形児の出産件数が増しているか、という問題である。活動家も、環境が汚れる前には奇形児の数はゼロであったとは言っていないであろう。しかしこのデータというものがまた、得るのがきわめてむずかしい。
この写真展では、そうはっきりとは言っていないが、この奇形児は、アメリカ軍が使用した劣化ウラン弾がその原因である、あるいはその可能性がある、と訴えているようだ。
劣化ウラン弾というものは、案外知られていないようだし、小型の核爆弾と誤解されているふしもあるが、それほどのものではなく、要するに貫通力のある硬い弾丸のことである。特に対戦車戦では、通常の弾丸では敵戦車の鋼板を貫通できない。そこで劣化ウランの弾丸が製造され、使われる時代に入っている。ところがこの弾丸は厄介で、常時周囲に放射能を発散している。アメリカで、今も問題になっているが、湾岸戦争従軍者で、原因不明の脱力感、倦怠感、不眠などの体調不良に悩む者がいる。原因は不明とされるが、この劣化ウラン弾の運搬とか、管理など、そばにいさせられた兵隊ではなかったかといわれる。
しかし、これもむずかしいことに、この健康被害が、劣化ウラン弾への密着時間に完全には正比例しない。出る者も、出ない者もいるようだ。
この弾丸は、着弾の際、粉末になって飛び散り、周囲を核汚染する。そして戦後は、そういう場所が子供の遊び場になったり、住民の生活地域や、居住区になったりする。こういう場所で長時間を過ごした女性や夫婦が子供を作った際、こうした奇形児が出生するという危険性は、否定できないところである。
6月16日付の朝日新聞には、これは今回のイラク戦争の影響に関する記事が載っている。以下に引用してみる。

バグダッドで放射線検出、被弾の戦車・建物などから。
イラク戦争で、米軍が使ったとみられる劣化ウラン弾の破片や、破壊された戦車や建物から、通常値の数倍から最大で百倍の程度の放射線(ガンマ線)が検出されたことが、藤田祐幸・慶応大助教授(物理学)の現地調査でわかった。広島市で開かれた「アフガン国際戦犯民衆法廷」で報告された。藤田助教授は「人体にすぐ影響する値ではないが、長期的に健康被害が懸念される」と指摘する。
5月22日から今月1日にかけてバグダッドと南部のバスラで調査。バグダッド市中心部の政府機関の建物周辺から、30ミリ機関砲で使われる劣化ウラン弾の破片が多数見つかり、1発につき最大で1時間あたり約6マイクロシーベルトの放射線が測定された。攻撃されなかった市内の公園で測定した値の約百倍だという。
同市内で被弾した戦車からは最大約24倍、バンカーバスター(地中貫通爆弾)によってできた穴からは約1.5倍の量が検出された。バスラでは、砲撃で地中に劣化ウラン弾がめり込んだとみられる跡が多数見つかり、地下水などへの汚染が懸念されるという。
藤田助教授は、「劣化ウラン弾の痕跡が現地で容易に見つかった。かなり使われた印象を受けた。同弾の破片などは早急に回収すべきだ」と話している。

この写真展は、近代戦の核汚染にテーマを絞っての展示になっている。核爆弾が使われなくとも、近代戦では核汚染は起こり得る。
そこで、広島・長崎の写真資料も同時に展示されていた。広島県出身のぼくだが、見た記憶のない写真が展示されていて、興味深かった。これは核爆弾だから、その被害は劣化ウラン弾とは比較にならない。
ともかく、広島長崎を後にした写真が、はるばる海を渡り、ロスアンジェルスのこんな山の中にまでやってきていて、感慨深かった。
今回のイラク戦に従軍した若者は、むろん退役後、軍の指定病院では医療費免除とか、大学入学の際は学費免除などの特典はある。しかし下級兵士の月給は日本円で15万5千円、これに毎月の戦闘手当てが、階級に関係なく、一律1万8000円ほどプラスされる。従軍による現金収入はそれだけである。
空母キティホークの乗組員5000人中、1500人はアメリカの市民権を持たないヒスパニック系や、アジア系の外国人といわれる。従軍者には、グリーンカードやアメリカ市民権の優先取得の特典がある。彼らはアメリカの市民権が欲しくて従軍している。
しかし、先述した原因不明の倦怠感に悩む従軍者には、治療の保障が不充分ともいわれる。
沖縄を取材したおりには、米軍基地の兵隊は、これは本国に積みたて送金を強制されているせいもあるが、月収はわずかに数万円と聞いた。アメリカは、非常に安い人件費で戦争ができている。
イラクの貧しい民、アメリカに移民してきて、市民権のために命をはる若者、いつの時代も、戦争はこういう層に犠牲を強いる。
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