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島田荘司のデジカメ日記
第133回
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8−22(木)、恐竜展にセイスモサウルスを観にいく。
ふと思いたち、幕張メッセで行われている恐竜博に、セイスモサウルスを観にいった。下に引用した一文は、いずれ世に出るであろう「伊根の龍神」の一部分である。セイスモサウルスは、現在のところ世界最大の恐竜といわれているもので、これの骨が幕張メッセに来ている。といっても発見されているのは三割程度なので、むろんイミテイションなのだが。


「恐竜学は今、世界最大恐竜の発見レースとなっている。史上最大最長の恐竜の名前が、毎年のようにくるくる変わる。それというのも、新種発見という場合、全身の骨の化石がいきなりすべて出るということはなく、このため全長の数字は常に推定となるからだ。発掘はまず一部分であり、全身が出揃うまでには長い時間がかかる。したがって、未発見部分の脊椎のパーツをいくつと推定するかで、全長の数字は簡単に変わってしまう。またこれぞ最大の新種と期待されても、のちにすでに知られている恐竜の一部分と解って、存在自体が消滅するケースも多い。

かつて最大の恐竜というと、私などもブロントサウルスと教えられた記憶がある。しかしこれは近頃、先に発見されていたアパトサウルスと同種であることが判明して、今は存在していない。

長く世界最大の恐竜とされてきたのは、ディプロドクス・カーネギィという、全長二十六メートルの恐竜であった。アメリカのカーネギィ博物館に飾られているこれは、結果として二十世紀の初頭から、数々の挑戦者を退けてきたチャンピオンということになる。しかし一九七二年、アメリカ、コロラド州で発見されたスーパーサウルス、全長三十三メートルが、これをとうとう打ち破った。

その後アルゼンチンで、アルゼンチノサウルスという新種が発見され、これの推定全長は三十から三十五メートルとされたので、スーパーサウルスを破りかねないと注目されているが、まだ立証されたわけではない。

さらにその後、アンフィコエリアス・フラジリムスという新種が報告され、これは全長が六十メートルといわれて世界の度肝を抜いたが、脊椎の化石一個からの推定であり、その後この化石自体が行方不明となったので、この恐竜の世界最大は三日天下ととなった。

スーパーサウルスを破りかねないものとして注目を浴びたのが、一九七九年にコロラド州で発見された肩甲烏口骨(胸元の骨)の化石で、これはスーパーを越えるものということでウルトラサウルスと命名されたが、のちになってスーパーサウルスなどの化石の一部分と判明して、存在自体が消滅した。

しかしスーパーサウルスも、ついに敗れる日がきた。一九九一年の論文で命名され、世界に初登場したセイスモサウルスは、全長三十五メートルとされるので、目下世界一の座についている。これは「地震竜」という意味で、推定体重四十二トンのこれが歩けば、周囲に地震が起きたろうという意味から名づけられた。

一九七九年、アメリカ、ニューメキシコ州北部、ロッキー山脈のふもとの砂漠からハイカーによって偶然発見された。八五年から本格的な調査が始まったが、一億五千万年前の地層から、まだ全体の三割程度が発掘されたにすぎない。残りの部分は近縁種のディプロドクスを参考にして復元されている。しかし現在、多くの発見が続いているから、この記録が来年塗替えられて不思議ではない。この倍近い巨大恐竜が現れる可能性さえある」


会場は広大で、ここにところ狭しと恐竜の巨大な骨がひしめいていた。広大な暗がりに、無数の恐竜の骨たちが、無言で行進している。まるきり悪夢のような光景だ。セイスモサウルスばかりではない。大きいもの、小さいもの、土になかば埋まったもの、いろいろとあるが、みんなただの褐色の骨だ。

感心したのは、セイスモサウルスの想像上の映像だ。現在の東京の街によみがえったセイスモサウルスが、銀座を歩いたり、後楽園球場の内野グラウンドに立ったり、はしけに乗って隅田川を遡ったりしている。ハイヴィジョンのワイド画面では、恐竜の細部や稜線もきめ細かく、周囲にもうまく溶け込んで、本物としか見えない。むろん昼間の絵で、夜間のごまかし映像でもない。ずいぶんと技術が進んだものだ。

この映像製作にもさんざん苦労があったようで、最初に作った試作映像には、これでは長い首が持ち上がらないとか、歩けないなどと、専門家からクレームがついた。セイスモサウルスの首の動きに関しては、橋梁設計の専門家の意見も聞いた。肩口に突っ立つ骨から、ワイヤーにも似た強力な筋肉で、長い首を吊っているのだという。

解説文では、この大蛇にも似た長い首のせいで、ジャングルの奥の草や葉も食べられると説明される。林立する樹の間に巨体は入れないが、首だけを挿し込むことはできる。草食恐竜は大変な大飯食いといわれるから、徐々に食糧難に遭遇したと想像されている。こういう体を持つものが、最後には生き残ったのであろう。そして少しでも首の長いものが、仲間よりわずかでも多くの食料を口にできたはずだ。

しかし、セイスモサウルスは謎だ。こんな生き物が事実いたのであれば、口から胃袋まで20メートルもある。租借嚥下のたび、食道は毎度20メートルも食物を水平移動させていたことになる。どうやって?

こんな長い首を、いかに強力な筋肉で吊っていたとはいえ、本当に終始、生まれてから死ぬまで水平方向に伸ばして暮らしていたのか。死ぬほどだるかったのではあるまいか。地面に横たえる瞬間はなかったのだろうか。あれば、この天国のように楽な瞬間に、どんな精神状態で延々と抵抗し続けていたのであろう。象の鼻はたいてい下方に垂れている。蛇は地面を貼っている。ダチョウは垂直に首を立てている。引力の小さい火星の生物とでもいうならともかく、引力の強力な地球上で、こんな生物の存在は少々考えがたい。もしいたとすれば、首を垂直に立てた姿勢が日常の姿だったのではないか。案外これも間違いだったとして、恐竜学の図鑑から絵が消えるのではという気もするのだが。

体に羽毛を持ち、翼を得て、小型の鳥に変化していく頃の恐竜も面白い。二足歩行の鳥の想像模型は、鳥人間に見える。

最近、以前には冷笑されていた隕石落下が恐竜を滅ぼしたという説が、すっかり市民権を得た。ユカタン半島沖の海中で、隕石孔が発見されたせいだ。ぼくなどが子供の頃とは、恐竜世界はすっかり様変わりした。恐竜学は面白い。
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