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編集室の窓から
島田荘司のデジカメ日記
第124回
島田荘司のデジカメ日記
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島田荘司のデジカメ日記
7−19(金)、井の頭公園で「魔人の遊戯」POP用の撮影。
駅前のルノアールで、文藝春秋社の荒俣編集者と会い、まずはインタヴュー。これは文春初の本格ミステリーの書き下ろしシリーズ、「ミステリー・マスターズ」第一弾の書き下ろし、「魔人の遊戯」の宣材をもくろむもので、「本の話」という小冊子に収録される。第一陣は、山田正紀氏の「僧正の積み木歌」、柄刀一氏の「凍るタナトス」、それに拙作の3冊となる。いずれも力作と聞いているから期待している。発売は8月30日となる。
インタヴューの準備をしていず、今ここで話してくれといきなり言われて戸惑ったが、そのためにかえって話が広範囲になり、深くもなった気がする。最近考えていることをあれこれと話したが、その中でこの企画と関係があるものは「21世紀本格」のアンソロジー以来ずっと考えてきている新時代の本格のこと、そしてユダヤ教、イスラム教の対立についてということになる。この部分は、「本の話」に収録されることになるだろう。
この作品は、アメリカに暮らす者として、迫っている対イラク戦争を意識して書いた。この作品は間に合ったが、ここに告白してしまうと、実は今、ずいぶん悔しい思いをしている。「伊根の龍神」のことだ。この作品がまた、北朝鮮工作員による拉致問題を中心にすえたものだった。今までこの作品に関してはいっさい話さずにいたが、それはこの北の問題が、作品の謎の一部を担っていたからだ。しかしもうこれほどに騒ぎになってしまった以上、隠すことに意味がなくなった。
ぼくはよど号グループの動きを、実はずっと追っていた。だから北による拉致問題、不審船の問題、キム・ヒョンヒ事件、半島内の問題などに関しては、一般よりは知識を持っていた。北へも入るつもりでいたのだが、これも事情があって果たせなかった。しかし情勢が急を告げてきたので、この「伊根の龍神」をミステリー・マスターズに出し、「魔人の遊戯」を原書房に廻すことをもくろんだ。原書房に懸命に頼んだのだが、責任問題になるという理由で大抵抗され、どうしても果たせなかった。「伊根の龍神」に原書房はかけていたらしいし、参考文献なども依頼して入手してもらっていたから、強いことが言えなかった。またこちらとしても、ここまで急激に拉致の実態開示が進むとは予想しきれなかった。イラク・アタックが現実のものとなって、金正日体制がここまでの大改心を見せる。世界の連動をそのように捉えれば、充分に予測もできたことで、いっそう悔しさは募る。
あれよあれよという間に事態は進み、こちらもスケジュールを立て直す時間がなかった。作品は不審船出没や拉致の実際などを、99年の時点ですっかり予期し、また解説したものであった。日記のこの日は、実は今、回想して書いているのだが、「伊根の龍神」がこの夏に出ていたら、被害者帰還による大フィーヴァーの直前だったから、さぞ面白かったろうと思う。騒ぎがここまで表面化したら、もうこの本の上梓はむずかしくなったともいえる。
しかしボツにはしたくないので、かくなる上は作品の構造を考え直し、21世紀の被害者帰還までを視野に入れた、もう一歩先を行く話にしなくてはならない。すでに原稿はかなり書き進んでいる。しかしそれでも、時流に急いで便乗、用意した作品にみられるであろうとは思っている。そんなことはいっこうに恐れないが、来年が出版に最善の時期かは、悩まされるところではある。またすでにできあがっているものをいったん解体し、現実のピースを加えての再構築は、なかなか骨が折れるし、むずかしい。

インタヴューを終え、井の頭公園に行く。公園では準備を整えたカメラマンが待っていて、撮影ということになる。これは「魔人の遊戯」の、書店用POPのための撮影であった。木陰をせいぜい探しながらカメラに収まったが、炎天下のことで、汗がだらだらと流れて困った。荒俣さんに頼んでいたデジカメの画像を見ると、光線が強いから、逆光気味だとこちらがすっかりシルエットになっている。
カメラマン氏も苦労していたが、こちらが終始レイバン・グラスをしていたのが災いし、文春編集部の女性の、「ちょっと怖い」の一言であえなくボツとなり、以前の週刊文春インタヴュー時の写真が使われることになった。
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