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編集室の窓から
島田荘司のデジカメ日記
第107回
島田荘司のデジカメ日記
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島田荘司のデジカメ日記
1−14(月)、光文社文庫、新シリーズ発売。
年が明けて14日、光文社のA井編集者より年始の電話があり、吉敷シリーズの新装丁の文庫が、もう全国の書店に並んでいるはずなので、今から行って様子を見てくる。写真も撮りたいので、これよりデジカメを1台買ってから紀伊国屋に行くという報告があった。A井さんは、燃えてくれていて、間もなく、写真を添付した重いメイルが届いた。

島田荘司先生
さきほどのお電話のあと、急ぎ、池袋のビックカメラでデジカメを購入し、新宿の紀伊国屋書店さんに行ってまいりました。ビックカメラの店員さんに、使い方をあらましうかがって撮影、そしてご送付させていただきますので、なにかと不備な点もあろうかと存じますが、ご寛恕のほど、お願い申し上げます。
2002年1月14日(月)、成人式の帰りらしい着物姿の女性が目立つ、祝日(成人の日)の新宿・紀伊国屋書店の2F、文庫フェア・コーナーでのスナップです。
光文社 カッパ・ノベルス編集部 A井N充拝

添付の写真は縦位置の撮影だったが、すべて横を向いていたから、縦方向に直して拝見した。新宿・紀伊国屋では、かなり大きく展開してくれているようで、嬉しかった。しばらくの間、こうしていてくれたらありがたいことだ。
デジカメはストロボなしで撮ったということだったが、大変綺麗に写っていた。この時のA井さんの記念すべき処女作も、ここに公開して遺しておこうと思う。この時書いたぼくの文章があるので、以下に引用してみる。

吉敷竹史の最新作、『涙、流れるままに』が文庫となることを機に、吉敷ものの全表紙を一新しました。今月これらを、全国の書店にいっせいに送り込むことになるので、しばらくは棚に残しておいてくださる書店も出るのではないでしょうか。
この方向で棚に残る小説群はというと、TV化されてお茶の間に馴染んだものが多いので、読者のため、さらに将来にわたって残すことを考えるなら、おそらくはTV化も考慮する必要があるのでしょう。私は吉敷物に関しては、映像化への抵抗感はまったくありません。日本人の役者が演じやすい世界と思います。
デザイナーは多田和博さんという関西の人です。多田さんが仲間のスタッフと2人で、欧州アンティークをあしらった、このような美しいシリーズを構想してくださいました。とても詩を感じさせる視覚世界の広がりなので、日本各地の旅情も描こうとしているこのシリーズには、よく似合っていると感じます。
20数点を一挙でしたから、デザイナーは材料集めが大変だったはずです。しかも作品群を見せていただいた時、その見事さに感動しながらも、『占星術殺人事件』には錆びた顕微鏡があしらわれているが、これには天球儀あたりが探せないかと言ったこと、『天に昇った男』の写真が、解像度や選択の判断に他との違いが感じられたこと、『幽体離脱殺人事件』の写真が、欧州小物ではなく貝殻なので違和感があったこと、代表作の『奇想天を動かす』が、他と差別感を持っていなかったこと、などなどから、これらには修正要求を言いました。これでデザイナーのご苦労は、さらに増したと思います。
しかし私は、非常に気に入ったものを目の前にすると、修正点があまりに明瞭に見えてしまい、どう説得されようと、迷いというものが生じないのですね。だから送り手には異様な頑迷さに写るかとも思いますが、でもこれは私が大いに気に入っている証なのです。この文庫群の装丁は、近年にないほど気に入りました。だから妥協など、考えることもできなかったのですね。そしてできあがった今は、長い生命を保って欲しいと願っています。
当初これらには、つるつるのPP加工に純白という、ごく常識的な線を考えていました。『涙、流れるままに』単体を見る限りは、そういう性質のものに思えたのです。しかしできあがった一群を大テーブルに並べ、俯瞰したら、一見して小説のシリーズというより、詩集の連作ような瀟洒な手触りが感じられたので、ヴァンヌーボという紙に、PPでなくニス引きという、これもまた型破りの方法を選択することにしました。ヴァンヌーボというのはやや黄ばんだ紙で、しかも少し薄いので、下が透ける危険があるのですね。加えてニス引きという手法は、さらにこれをカヴァーしません。
けれどこの一連のヴィジュアルは、全体にセピアの印象が強く、錆びの浮く渋い世界と感じられたので、ブルーがかった純白というよりも、黄ばんだ紙の方が馴染むと考えました。ニス引きは、紙の表面の微妙な凹凸も手に伝えるので、汚れや破損の危険が定型よりはある反面、手作りの丁寧さを手に取る人に伝えるように思います。結果としてこの一連の小さな書物群は、これまでの文庫小説にはない美しさを得たように思い、大変満足しています。光文社の対応に、感謝しています。
2002年1月1日記。

A井さんは、デジカメの面白さに魅せられたようで、これからはデジカメに生きる、デジカメのA井と呼んで欲しいと何度か言っていたが、その後ひと月もすると飽きてしまったらしく、またアルコールの方に戻っていったようだ。以来、作品は見せてもらっていない。
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