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島田荘司のデジカメ日記
第105回
島田荘司のデジカメ日記
12−30(土)、2001年、「秋好事件」の師走、4。
12月23日の、堀弁護士よりのCCメイル。

岩波先生。
弁護士の堀です。

1、T子が着用していた作業着の材質は、裁判所に提出された際の検証調書によりますと、襟の内側にポリエステル65%、レーヨン35%と表示されているようです。作業着は2枚提出されていて、一枚は事件当夜に着用していたものと同じもの、もう一枚は勤務先から支給されたと虚偽の申立をしたと思われるものですが、2枚とも同じような材質の表示があったようです。

2、信州大学の先生の件も含め、わたしたちは、可能性があるのなら都合をつけてお伺いするつもりです。まずは、東大の先生の可能性を追求してみるということになるのでしょうか。

よろしくお願いします。

25日、クリスマスの日、さらに堀弁護士のメイルがCCに上がった。

岩波先生、CC:島田様、安部先生、高橋先生。
弁護士の堀です。お返事が遅くなって申し訳ありません。他のメンバーと議論している暇がありませんので、わたしの考えになりますが、お聞きしていただきたいことを箇条書きにすれば、次のとおりです。よろしくお願いします。

1、単独犯行と血痕の矛盾点について、すなわち、本件が単独犯行とした場合の行為態様、とりわけ被害者と行為者の位置関係、使用された凶器、被害者の受傷状況・程度から、カッターシャツ等の血痕の付着状況は矛盾するところはないか。

a、血痕の付着量に矛盾はないか。
b、カッターシャツ前面と背面の血痕の相異に、矛盾はないか。
c、付着した血痕は、行為者に付着するであろう血痕(とりわけ返り血)であると評価できるか。

2、カッターシャツ背面の血痕について。

a、T子(富江)が着用していた作業着に付着した被害者の血液の、転写と評価できるか。
b、転写によるものと、そうでないものとの区別の仕方。

3、カッターシャツ両袖に付着した大量の血液について。

a、どのような状態で付着したものか。
b、犯行時に付着したものと評価できるか。
c、実況見分調書の写真と、付着量が異なっていると評価できるか。

4、血痕の付着の順序、各血痕はどのような状態で付着したものか。

a、このことは明らかにすることができるのか。
b、どのような手法で明らかにできるか。
c、実験で明らかにする手法はあるか。

これを受けて同日、岩波先生の返信があった。

堀先生、CC:島田先生。
岩波です。お忙しいところ、ていねいなメールありがとうございました。明後日に東大の法医学の先生とアポイントがとれましたので、先生がご指摘された点を詳しくきいてみます。良心的な先生なので、公平な立場から話してくれると思います。
また東大関係で鑑定が不可能かどうかもう一度トライをしてみます。ただ11月に相談した時は、なかなか難しそうでしたので、可能性はそれほど大きくはない感じがします。
またご連絡いたします。
岩波明

そして12月28日、いよいよ岩波さんの、A先生との会見の報告があがった。

堀先生、CC:島田先生。

昨日東大法医学教室のA先生に、堀先生から送っていただいた資料をもとに、約1時間半ほどかけて、ご意見をうかがってきました。その結果を記します。

1、東大法医学教室について: 以前より東大で鑑定ができないかという依頼があり、あらためて可能性をお聞きしましたが、現状では難しいとのことでした。現在の教授は生化学が専門で、大きな事件の鑑定の経験がなく、助教授は留学中とのことで、どうしても必要な鑑定は「外注」のかたちで処理をしているということです。
A先生は非常に協力的な方で、いろいろな可能性を考えてくださいましたが、やはり難しいようでした。

2、質問事項について: 以下、堀先生のご指摘になった点についてのコメントをまとめます。

>1、単独犯行と血痕の矛盾点について、すなわち本件が単独犯行とした場合の行為態様、とりわけ被害者と行為者の位置関係、使用された凶器、被害者の受傷状況・程度から、カッターシャツ等の血痕の付着状況は矛盾するところはないか。
>a、血痕の付着量に矛盾はないか。
>b、カッターシャツ前面と背面の血痕の相異に矛盾はないか。
>c、付着した血痕は,行為者に付着するであろう血痕(とりわけ返り血)であると評価できるか。

・ カッターシャツ前面と後面の相違は、奇異な印象がある。
・ 「広子」の首の傷から考えると、相当激しく血液が流出した可能性が大きい。流出の向きにもよるが、カッターシャツの血液の量は確かに少ない。
・ これに対し、「努」の出血は少なかったと思われる。
・ 飛まつ痕がないのは不自然であり、返り血とは断定できない。
・ しかしいずれにしろ、決め手には欠ける。不自然な面はあるが、秋好さんが犯人としても、絶対的な矛盾はない。
・ 現場の写真は他に残っていないのか。もし壁やふすまに血液の飛まつ痕があれば、血液の流出方向がはっきりし、返り血が秋好さんにかかっていないことが論証できるかもしれない。

>2、カッターシャツ背面の血痕について。
>a、T子が着用していた作業着に付着した被害者の血液の転写と評価できるか。
>b、転写によるものと,そうでないものとの区別の仕方。

・ 転写の可能性は十分にあるが、断定はできない。
・ 飛まつ痕がなく、表面にこすれたような跡が遺っているなどすれば、転写と考えられる。

>3、カッターシャツ両袖に付着した大量の血液について。
>a、どのような状態で付着したものか。
>b、犯行時に付着したものと評価できるか。
>c、実況見分調書の写真と付着量が異なっていると評価できるか。

・ 非常に不自然である。
・ もし袖に広子の血液が中心なら、かえって被告人に不利になってしまう(殺害している時に付着したとみなされるかもしれない)。
・ 被告が、富江の衣類を処理した際に付着したのかもしれない。
・ 実況見分調書との違いは、評価が難しい。写真の写り具合の問題もあり、絶対的に違いがあると断言するのは難しい気がする。もっとはっきりした実況見分書の写真はないのだろうか。

>4、血痕の付着の順序、各血痕はどのような状態で付着したものか。
>a、このことは明らかにすることができるのか。
>b、どのような手法で明らかにできるか。
>c、実験で明らかにする手法はあるか。

・ 付着の順序については、明らかにすることは困難で、実験的にも難しいのではないか。

他にコメントとして。

・ 被告、あるいはT子(富江)が出血していたのなら、その付着状況から議論できる可能性はある。
・ 2FのT子(富江)の足跡に、1Fの被害者の血液がついていることを立証できるなら、有力な反証になろう。
・ いずれにしろ、自分の考えでは、この証拠から被告に決定的に有利な点を捜すことは簡単ではない。血液鑑定をしても、大きく状況が変化するかどうかはわからない。
・ 鑑定をするのなら、弁護側でかなりの部分のストーリーを作成しておき、それに乗って鑑定人に論証してもらうようにしないと、有利な結果が得られない可能性が大きい。

A先生は、かなりわれわれサイドに立って考えてくださいましたが、かなり厳しいご意見でした。新たな資料があれば、再度相談に乗ってくださるそうです。今後の進め方などについて、先生方のご意見をお聞かせください。
岩波明。

2001年末も押し迫った30日、これを受けての堀弁護士のコメントがCCにあがった。

岩波先生、CC:安部先生、高橋先生、島田様。
弁護士の堀です。

>昨日東大法医学教室のA先生に、堀先生から送って頂いた資料をもとに、約1時間
>半ほどかけて、ご意見をうかがってきました。

お忙しい中、ありがとうございます。貴重な意見だと思います。

>・カッターシャツ前面と後面の相違は奇異な印象がある。
>・「広子」の首の傷から考えると、相当激しく血液が流出した可能性が大きい。流出
>の向きにもよるが、カッターシャツの血液の量は確かに少ない。

この2点は重要な指摘です。「奇異な印象」というのは、本来ならどうあるべきで、それがどのように異なるから「奇異な印象」をもたれたのか、詳しくお聞きしてみたいと思いました。

>・ これに対し、「努」の出血は少なかったと思われる。

その根拠については興味があります。Y先生とは違った根拠なのでしょうか。

>・ 飛まつ痕がないのは不自然であり、返り血とは断定できない。

すごく重要だと思います。この点がゆらぐと、これまでの立論をあれこれと再検討しなければならないと考えていました。

>・ 現場の写真は他に残っていないのか。もし壁やふすまに血液の飛まつ痕があれ
>ば、血液の流出方向がはっきりし、返り血が秋好さんにかかっていないことが論証で
>きるかもしれない。

写真はあります。ただ写りがあまりよくないので、どの程度論証可能かは不安ですが、一度見ていただく必要があると思いました。

>2、カッターシャツ背面の血痕について。
>・ 転写の可能性は十分にあるが、断定はできない。
>・ 飛まつ痕がなく、表面にこすれたような跡が残っているなどすれば、転写と考えられる。

これも現物がありますので、お持ちすれば、もう少し具体的な見解をお伺いできるかと思います。

>3、カッターシャツ両袖に付着した大量の血液について。
>・ 非常に不自然である。
>・ もし袖に広子の血液が中心なら、かえって被告人に不利になってしまう(殺害して
>いる時に付着したとみなされるかもしれない)。
>・ 被告が富江の衣類を処理した際に、付着したのかもしれない。
>・ 実況見分調書との違いは、評価が難しい。写真の写り具合の問題もあり、絶対的に
>違いがあると断言するのは難しい気がする。もっとはっきりした実況見分書の写真は
>ないのだろうか。

この点も、シャツなどの現物や実況見分調書の他の写真をご覧いただいて、もう少し見解をお伺いしたいと思います。

>・ 付着の順序については、明らかにすることは困難で、実験的にも難しいのではないか。

残念ですが、今後の対応の可能性を絞り込むことができるという意味では、ありがたい情報です。

>・ 被告、あるいはT子(富江)が出血していたのなら、その付着状況から議論できる可能性は
>ある。
>・2FのT子(富江)の足跡に、1Fの被害者の血液がついていることを立証できるなら、有力な
>反証になろう。

この2点は、そうした事実はなかったと思いますが、休み明けにチェックしてみます。

>・ いずれにしろ、自分の考えでは、この証拠から被告に決定的に有利な点を捜すこ
>とは簡単ではない。血液鑑定をしても、大きく状況が変化するかどうかはわからな
>・ 鑑定をするのなら、弁護側でかなりの部分のストーリーを作成しておき、それに
>乗って鑑定人に論証してもらうようにしないと、有利な結果が得られない可
>能性が大きい。

厳しい状況ですが、今後どういう可能性がありうるのか、A先生の見解をお伺いしたいと思いました。
いずれにしても、何か有意な可能性のある取り組みはないか模索している状況ですので、一度A先生にお会いする機会を作っていただければ幸いです。
それとも、A先生ではなく、新たに信州大学の先生にお会いした方がいいのでしょうか。他の弁護団の先生や島田さんのご意見はいかがでしょうか。

いよいよ今年も大晦日を迎えてしまいました。今年末年始の休暇中で、実家の別府からメールしています。来年は、この事件もいよいよ正念場を迎えます。今後とも、よろしくお願い申し上げます。 よいお年をお迎え下さい。

岩波明さんの活躍のおかげで、「秋好事件」もよい締めくくりを迎えることができた。今後に希望が出た。

(今回は写真掲載はございません)
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